「残さない」「増やさない」 Vol.2 エッセイスト・平松洋子さん
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「40代の後半くらいから、ものをだんだん減らしていって、身軽になっていきたいと思うようになりました。そのくらいの年齢にもなれば、暮らしも含めた自分に合うものというのが具体的に狭まってきて、見通しもよくなってくる。この先20年あるかどうかを考えたとき、余計なものはもういらないと思ったんです。でもそれは決してネガティブな意味ではなく、自分には今何が必要なのかということを考えた上での前向きな縮小なんです」
かといって、今の自分にはこれが必要だからと、意図的に何かをすることをあまり好まないと言います。
「そこに見たいものがある、会いたい人がいる、知りたいことがある。今行っておかなくてはいけない。今の自分には必要だとわかるから、それに駆られて何かをするわけなので、旅には身構えないし躊躇もない。空気の入れ替えみたいなもので、自分が澱んでいない感じは大事にしていますね」
<増やさないおへそ>
”赤いジャム”があればいい
「初夏に八百屋の軒先に杏が出たら、まず杏のジャムを作り、続いてプラム、ソルダム、ブルーベリーと赤い果物が出てくるので、それらを混ぜて一年分の”赤いジャム”を作ります。どこにもないきれいな赤。この色が見たくて作っているようなもの」。そんな季節のジャムを4~5種類作れば、気まぐれにジャムを買うこともない。
調味料は自分好みの定番だけ
自分の味のベースとなる調味料は、基本のものにしぼって増やさない。
好みの酒、しょうゆ、酢、みりん、ごま油、オリーブオイルを。
料理酒は一升瓶の純米酒を四合瓶に移し替えて冷蔵庫で保存。
ハサミはこれ1本あればいい
「切れ味が抜群で、A4の紙や封筒がスパッと切れ、新聞の切り抜きもスムーズ」という「ポール」のハサミ。ストレスなく使える「これだ!」というものが見つかれば、もうそれ以外はいらない。
ひと箱にひとつの用途を収める
葉書や便せん、文房具といった生活雑貨は、アイテムごとに収納箱を決め、そこに入るだけしか持たない。「でも、文房具の箱はふたが多少浮いててもばれないの」とそのあたりはご愛嬌。
text:和田紀子 photo:日置武晴
Vol.3に続く
Profile
平松洋子
エッセイスト。岡山県倉敷市生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。食文化と暮らしをテーマに執筆活動を行う。『買えない味』で第16回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞、『野蛮な読書』で第28回講談社エッセイ賞受賞。著書多数。近著は『肉まんを新大阪で』(文春文庫)。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。