枝元なほみさん vol.1「台所の窓は社会につながっている」

大人暮らし これからの食卓
2019.04.25

子どもが独立して、夫婦ふたりの生活に。仕事や暮らしのスタイルを今の年齢に合った形に変えようと思いつく……そんな人生の節目は、ふとした瞬間に訪れます。これからの日々は「のんびり自分流に」と、暮らしや考え方を切り替える方も多いようです。特に個性が際立つのが、日々の食卓。体調や食の好みが変わってくる年代に差しかかることもあり、心も体も健やかに過ごせる“今の自分にちょうどいい食事”が、それぞれ定まってくるのかもしれません。
そこで「暮らしとおしゃれの編集室」では、食まわりの仕事をする素敵な先輩方に、年を重ねた今、日々の食卓にどんな変化があったかをお聞きしてみました。連載第3回は、料理家の枝元なほみさんが登場。新刊『これからの暮らしと食卓』でも詳しくご紹介していますので、ぜひあわせてご覧くださいね。

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「年を重ねて、食卓、台所のありようは、どんなふうに変化しましたか?」
この連載で、みなさんに投げかけている質問です。枝元なほみさんは小さく息を吸い込み、その吸った息をふうっと長く吐き、トロンとした声で話し始めました。
「この頃になって特に、料理をすることは社会につながっていることなんだなあ、と強く思うようになりました」

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食べることは、生きて暮らしていくうえでの基盤。そして、何を食べるかは、ほとんどの人が毎日毎食、行っている選択です。人が一生のうちで行う選択の中で、一番頻度が高いといっても過言ではありません。

「その際、どう選択するかで、社会のあり方も変えていけると思うんです」たとえばね、と話は続きます。

「レシピ提案の仕事の打ち合わせで、ある加工食品を使ってくださいといわれたんです。スーパーやコンビニで売られているので手に入れやすく、とても安価。でも、便利で人気があるのはわかるけれど、できれば自分の料理には使いたくないなあって。遺伝子組み換えの原料を使っていたり、ファクトリーファーミング(工場式畜産)だったり、フェアトレードじゃなかったり。大量に安く作られているものは、どこかに無理がかかっているんじゃないかと、想像してしまうから」

とはいえ、人々の日常生活で、安くて便利な食品が求められている現実も理解できます。そして、まっとうに作られたものは、どうしてもそれなりの価格になってしまうのだということも、自身が食品加工に携わるようになってから切に感じています。

「人件費や生産コストを考えると、今の社会は、素材をきちんと選び丁寧に作ったものは、利益が上がりにくい構造になっているんですよね」

そうしたことを十分に理解したうえで、体に何かしらの悪影響を与える可能性のあるもの、作る人たちに負荷のかかってしまうものなどは、できる限り避けて料理をしたい。持続可能で健やかな食を、子どもたちの未来に残したいと、より強く考えるようになりました。次の世代のことに思いが至るようになったのは、特に60歳を過ぎてからかもしれない、と話します。農業支援や被災地支援の活動を通じて、食や農業の様々な問題点に直面し、「なんとかしなくては」という強い思いを抱いています。そして、次世代に「希望を」と願うのです。

「『そんなこといっても、高い食品を買う余裕はないんですっ』という声はよく聞きます。でもね、お金がないからおいしいものが食べられないという考え方は、すごく残念でもったいないと思うんです。その価値観しかなかったら、お金のあるなしで幸福かどうかが決まってしまうみたいな、そういうさびしい社会しかつくっていけないじゃないですか」

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炊き立てのツヤツヤごはん、ホクホクの蒸し立てのお豆。そんな一見、慎ましい日常の食事の中に、おいしさや幸せを見いだせる価値観を持ちたいと話します。

「私は料理を仕事にしているけれど、レシピの小さじ1、大さじ1にばかりこだわるより、〝食べる〞という根源を常に考える料理人でいたいと思うんです。食べることは、生きることに密接にくっついているんですよね」

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だから「これを食べてはダメ」と、否定したり強いたりはしたくないといいます。それは、その人の生き方を否定することになってしまうから。「安い食材ってやっぱり買っちゃうよね」と思うし、枝元さんだって時にはジャンクフードも食べます。

「ただ、この安さはどうして成り立っているんだろう? 舌に残るこの後味はなんだろう? と考えたりしながら口に運ぶことも大事なんじゃないかと思うんです。必要以上の安さを生み出すためには、作る過程で誰かが無理をしないといけなくなるでしょ? そこに思いを巡らせたい。〝安ければいい〞という価値観だけでは食の循環が成り立たなくなるんじゃないかしら」

 

「“これから”の暮らしと食卓」より
photo:竹内章雄 text:鈴木麻子


→vol.2につづきます

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