物語のおへそ ― 木彫刻家・西浦裕太さん vol.1
映画が作りたくて留学。
でもチームワークで動くことが苦手で断念。
その後めぐり合った「彫刻」で描く世界は
どこか映画と似ていました。
2019年7月の個展「シンシアリー」(親愛)では、内側と外側が違うことをわかってもらう姿勢をゴリラを通じて伝えている。この2匹のタイトルは「親しみの表現の切実さと切なさがあなたには伝わりますか」。
木彫刻家、西浦裕太さんの作品を見ると不思議な気持ちになります。美しいんだけれどちょっと怖い。心満たされるけれど、何かが欠けているようで寂しい……。西浦さんは、一体何を生み出したいのでしょう? そのヒントが、日々の習慣のなかにありました。
朝と夕方、愛犬を連れて、散歩に出かけるのが日課だといいます。
「歩きながら、『なぜだろう?』を探すんです。たとえば、僕の家は坂の上にあって、こっちは風が吹いていないのに、下のほうでは木々が風に揺れているのは、どうしてだろう? とか。日常のなかで当たり前すぎて、通り過ぎてしまうことの前で、ちょっと足を止めてみる……。そうすると、いろんなストーリーが生まれてくるんですよ」
朝と夕方、愛犬アールを連れて散歩に。まわりの自然を眺めながら「なぜ?」の種を拾う。学校が休みの日には息子さんが一緒に出かけるときも。
ストーリーってどんなものですか? と聞いてみました。
「さっきの、坂の上では風が吹いていないのに、下は吹いているという例だと、もしかして、風を形にしたら、頭と尻尾があるのかな……とか」
なるほど。どうやら、西浦さんが知りたいのは、「なぜだろう?」に対する正解ではないよう。
「自分が、一体何を想像するんだろう? ということに興味があるんです。だから作品を見ていただくときにも、ムクムクと立ち上がる自身の想像の力に、驚いてもらえたらと思って」
若い頃から映画が大好きで、映画を作る人になりたかったそうです。でも、友人の画家の個展を見たのをきっかけに「映画じゃなくて、こっちだな」と思ったのだとか。大学卒業後に、アフリカのタンザニアへ。そこで出会ったのがマコンデ彫刻でした。
「現地での生活は楽しかったですね~。日本に帰りたくなくなるぐらい(笑)。彼らは、ありのままなんです。人としての強さもあるし、もろさもある。取り繕ったりしないから、そういうものが生々しく残っているんです。そのなかに身を置いたとき、『ああ、僕はこのままでいいんだ』って思えたんです」
→vol.2に続きます
「暮らしのおへそ Vol.28」より
photo:興村憲彦 text :一田憲子
Profile
西浦裕太
木彫刻家。大学在学中に映画を学びにスコットランドに留学。タンザニアの大学で美術を学び、彫刻に出会う。日本の美術学校で水墨画を学び、ドイツの美術学校でビジュアルコミュニケーションを学ぶ。2007年、東京・代官山で初個展、木彫刻家として活動。
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