物語のおへそ ― 木彫刻家・西浦裕太さん vol.2
見えないものを作る
ゴリラを作るのでなく
背景や舞台を作る。
彫刻は、裏側を彫り出すこと。
朝から夜遅くまで、自宅裏にある工房で木と向き合う。大きな木を機械でカットしたあとは、自作したという彫刻刀を使って形を生み出す。手にしている彫刻刀を打つための木の棒はタンザニアの恩師からいただいたもの。
さらに、「彼らの内側からあふれ出るもののように、僕が日本人としてもっているものはなんだろう?」と考え、帰国後、水墨画を習いはじめました。
「白と黒の世界は、見えるものを描くことで、見えないものを感じさせるというものでした。すごく勉強になったし、今も生かされているなと思います」
ドイツでコンセプチュアルアートを学んだ後日本で制作活動を始めました。
「なぜだろう?」と考えて、想像力を広げて「こうなんじゃないかな?」と仮説を立てる。それが、作品のアイデアやタイトルに。
西浦さんが作る作品には、まるで一編の詩のような美しいタイトルがついています。「星の満ち欠けの話をしてあげよう」「若者はこの森のどこかに自分の名前を落としたことに気がつきました」といった具合。
「言葉を考えるときには、作品そのものではなく、その前後やまわりにあるものの移ろいを、どうしたら出せるだろうか? と考えますね」
西浦さんは、木彫で「モノ」を生み出します。でも、本当に見て欲しいのは、「モノ」のまわりの風景や物語。
「彫刻家は、木の中に埋まっているものを救い出すように彫るって言いますよね? でも僕ははみ出してもいいんじゃないかと思うんです。僕の作品では何かが欠けていたり、一部がなかったりします。『無い』というのは『はみ出た部分』なんです。そこから想像力がもっと広がっていくと思うから。だから不完全なものを目指していますね」
息子さんが小さなときに発したおもしろい言葉、本を読んで引っかかったり、散歩中に浮かんだ言葉をノートに書きとめておく。
私たちはあるはずのものがそこにないとき、自然に想像力でそれを補おうとします。何を補うかは人それぞれ。
足りないから、何かを買ってくる。欠けているから何かをプラスする……。それが当たり前だと思っていたのに、西浦さんは、「足りないままでいい」「欠けたままでいい」と言います。そこから、想像力という絵筆でどんな物語を描くかがおもしろい! 空を見上げ、風の音に耳を傾けてみたくなりました。
作品を作るときに聴いているのは音楽ではなく、なんと落語。「同じ話でも、語る人が変わると、描く風景が変わるのがおもしろい」
「暮らしのおへそ Vol.28」より
photo:興村憲彦 text:一田憲子
Profile
西浦裕太
木彫刻家。大学在学中に映画を学びにスコットランドに留学。タンザニアの大学で美術を学び、彫刻に出会う。日本の美術学校で水墨画を学び、ドイツの美術学校でビジュアルコミュニケーションを学ぶ。2007年、東京・代官山で初個展、木彫刻家として活動。
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