振り子のおへそ ― 安西留美さん vol.1

暮らしのおへそ
2019.10.23

15年前に父が倒れ
週1〜2回実家へ通うように。
畑仕事を手伝い、老いに向き合い
自然に生かされていることを知りました。

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実家の前で。お父さまの三角輝夫さんは、左半身不随で一日のほとんどをベッドの上で過ごす。平日はお母さまの笑子さんが、すべてのケアをしながら畑仕事を。

 

毎週土曜日の朝7時。安西さんは車で自宅を出発します。40分ほどかけて実家へ。着くとすぐに田畑の世話にとりかかります。

「草刈り機で草を刈ったり、畝(うね)を起こしたりと、母ができない機械仕事や力仕事が中心です」と教えてくれました。

お父さまの三角輝夫さんが脳出血で左半身不随になったのは、今から15年前のこと。当時32歳だった安西さんは、すぐに手伝いに通うようになりました。散髪、着替えの手伝い、調子が悪くなったときはオムツの交換、以前は入浴の介助もしていたそう。

お母さまの笑子さんも持病があり、すぐに疲れたり、足が腫れて歩けなくなったり。それでも、実家で過ごす安西さんの底抜けに明るいこと!

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お父さまが1週間分のできごとをノートに書いているので、安西さんが目を通し、簡単なコメントを。ノートがコミュニケーションツールのひとつになっている。

 

「父をお風呂に入れるとき、最初は恥ずかしがっていたのですが、『大事なところは自分で洗え〜!』みたいに、わざとふざけて言ってみたりして、オトンの丸洗いと犬の丸洗いを一緒にしていましたね〜」と笑います。

音楽が好きで、幼い頃からピアノを習い、高校時代からはバンド活動を。コンサートPAなどの音響の仕事がしたくて専門学校へ。卒業後は、テレビの制作会社に就職し、以来27年間、ずっと映像制作に関する音の仕事をしているそうです。仕事は不規則で、深夜、あるいは朝方までかかることも。

そんななかで、週末ごとに実家へと通うのは大変なことです。

「大変だと思ったら、自分がしんどいだけなので、現状が変わらないんだったら、楽しくやろう! と思っています。そういうのは得意なんです。畑も、自分が食べたいものを植えてみたり。土に触れるようになって、私の暮らしも変わりました。種を蒔いて、芽が出て、見守り、コツコツ手を添えて……。待つということが豊かさにつながるんだと教えてもらいましたから」

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料理がお得意な笑子さん。自家製みそを加えた白あえは定番料理。この日はゆでた豚肉と庭でとれたバジル、ふっくらと煮含めたしいたけなどで太巻きずしを。母の味を覚えるのも楽しみのひとつ。

 

それでも、知らず知らずに無理がたまっていたよう。

「あるとき、知り合いに、『やりすぎ、頑張りすぎ。もっと自分を大事にして、いろんなものを肩から下ろさないと』と言われて大泣きしました」

それからは、自分が「やりたいこと」を我慢しないことに。好きな作家さんの展示会に出かけたり、会いたい人に会いに行ったり。

→vol.2に続きます

 

「暮らしのおへそ Vol.28」より
photo:岡田久仁子 text :一田憲子


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Profile

安西留美

Rumi Yasunishi

音響の専門学校卒業後、テレビ制作会社に就職。番組制作現場で音声を担当。その後、映像制作に関する音の仕事を。緑豊かな環境で暮らしたいと、兵庫県の郊外に夫とふたり暮らし。毎日1時間半かけて会社まで通っている。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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