イメトレのおへそ ― 「CHICU+CHICU 5/31」主宰・山中とみこさん vol.2
骨董店を開いたのも
服を作りはじめたのも
人と場所とタイミングのめぐり合わせ。
どう生きるかは
やってきた運を、どう受け取るかということ。
古い一軒家の壁と床をペイントしてショップ「山中倉庫」をオープン。「什器も最小限にして、ポールを吊るして洋服をかけただけ。身軽でいられるよう、すぐに辞められる状態にしているんです」
そんな山中さんが今イメトレ中なのが人生の閉じ方です。まずは、すべて自分で手がけてきた洋服を、縫製工場に依頼して「プロダクト」としての生産体制を整えました。
「時間に余裕ができて、地方のギャラリーに出かけて展示会を開くこともできるようになったんです」
さらに、日用品を整理して暮らしをひと回り小さく。
「冷蔵庫やクーラーなど、電化製品を買うときには、『これが最後の買い替えだな』と思いながら選びますね」
そして、夫と相談して自分たちは「樹木葬」にすることを決めたそう。
「2人の息子たちは、自活できるようにと育ててきました。だから私たちも、子どもに世話になることを考えるのはやめようと思って。老いていく怖さを受け入れながら、働けるところまで働けたらいいなあと思って」
そんな姿は、歳を重ねるごとに、どんどん身軽になっていくよう。
「子育ても、親の介護も早いうちに終わったので。今は、全部自分のために時間が使えます。好きなことをやって、今が、いちばん幸せかな」
山中さんがこうやって潔くすべてを手放せるのは、目の前にあることをその時々で、「やりきって」きたからなのかも。人は、理想と現実を一致させられないと「不満」が残ります。できないことに無理に手を伸ばすことなく、自分の胸に「本当にやりたいこと」を問いかけて、それを「イメトレ」という時間で熟成させる……。自分に正直になれば、人生の終盤にこんなにも伸びやかに、自由になれると、お手本を見せていただいた気がします。
仕事を緩める
すべてを自分で抱え込まず
誰かに託すことで
仕事のなかにお楽しみの時間が生まれる。
爪は真ん中だけ赤く
今は、古い生地をなるべくそのまま生かして作る洋服のみ、自分で仕立てている。真っ赤なマニキュアを塗ると、気分が上がるそう。両端を残し真ん中だけ塗るのがいつもの方法。
誰かに託して作る
すべてを自分で抱え込むとしんどくなるので、デザインだけを手がけて、工場で縫製する「プロダクト」のラインを始めた。1枚で目立つのではなく、組み合わせがきくデザインが特徴。
ものを減らす
欲しいものを手に入れることより
持って帰った先にある
空間が心地いいことが大事。
築45年のマンションを8年前にリフォーム。極力ものを増やさず、シンプルに暮らしている。ダイニングテーブルは、ネットショップで見つけた、図工室で使われていたという古いもの。壁の絵は、ひと目惚れで購入した西脇一弘さんの作品。
ひとつの石けんで暮らす
「自然丸」の石けんを4つにカットし、家のあちこちに。手や顔、体を洗うのも、台所や浴槽を洗うのもこれで。化学合成物質はいっさい無添加。あれこれ洗剤を持つ必要がなく、ストック場所も必要ない。
色でしまい場所を替える
リフォームした際にクロゼットを作ってもらい、黒、ネイビーの洋服はここに。白い服は出しておいても気にならないので、リビングのコーナーに吊るしている。ここに収まらなくなったら処分を。
青森にある両親の墓じまいをしたことで、お墓を守っていくことの大変さを実感。子どもたちに負担をかけないように、樹木葬にすることを決めた。パンフレットをもらいに行って検討中。
夫婦は互いに我慢しない
結婚当初から、夫婦ふたりともが互いに干渉しすぎないような距離を望んできた。夫は若い頃からずっと続けてきたバンド活動を。山中さんも、地方の展示会に自由に出かける。
最後のつもりで家電を買う
これから、10年、15年と使い続けるだろう家電は、年齢を考えると、「この買い替えが最後」と思っているそう。間に合わせで買わず吟味して。最近ではクーラーと冷蔵庫を買い替えたばかり。
「暮らしのおへそ Vol.28」より
photo:有賀 傑 text:一田憲子
Profile
山中とみこ
大学では福祉を学び、卒業後は会社員に。結婚を機に専業主婦になる。子育てが一段落した頃、リフォーム会社に勤務。その後古道具店をオープン。4年弱続けて閉店。小学校の特別支援学級で補助職員となる。2003年に洋服ブランド「CHICU+CHICU 5/31(チクチク)」をスタート。昨年ショップ「山中倉庫」をオープン。夫とふた暮らし。10月にエクスナレッジより新著を発売予定。
http://chicuchicu.com
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。