スプーン作家・宮薗なつみさん(後編)~スプーンが、いろんな場所へ連れていってくれる

”つくる人”を訪ねて
2016.09.15

スプーンだけをつくり続けている木作家・宮園さんのスプーンが描く美味しいシーンのおはなし、つづきです。

 

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Photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

 

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さて、これらのスプーンは一体どのようにつくられるのでしょう? まずは型紙を元に、電動の糸鋸で厚みのある板をスプーン型に切り落とします。次にスプーンの深さ、角度などを考慮しながら上下部分を落とし、彫刻刀を使ってくぼみをくり抜いていきます。最後に小刀を使って側面や柄の部分を削り出し、やすりをかけてフォルムの完成。ここからオイルや漆の塗装の作業が加わります。

 

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「何本もスプーンを作っているうちに、手のかたちが変わってきちゃいました」と笑いながら、スルスルと器用に彫刻刀や小刀を扱う宮薗さん。手は軽快に動きながらも、意識は静かにスプーンに入り込んでいく様子がうかがえます。道具としての耐性を保てるからには、もちろん材料の木は堅く、刀を握る手にはしっかりとした力が必要で、このリズミカルで熟練された動きにたどりつくまでには、数えきれないほどのくり返しがあったことでしょう。ただの板が、宮薗さんが刃物を動かすたびに、スプーンとしての命が少しずつ宿っていくように感じられました。

 

「ようやく最近、手を動かしているときに無心になれるようになってきた」と宮薗さん。それ以前は、雑念が入ってしまうと同じように見えても、自分では納得いかないかたちになり、お蔵入りするケースも多かったのだそう。「ここ最近は、どんなに落ち込んで気分がのらないときでも、手に刃物を持てば無心になり、ある程度しっかりしたかたちが生まれるようになってきました。『ああ、いいかたちができた』と、できたスプーンに逆に救われたり、自信をもらえたり、ありがたいなあと思っています」

 

このように1本1本彫りだす方法でつくっているので、もちろん量産することは不可能です。「1日3本、1か月で約100本が目標ですが、それをクリアしていくことも、なかなか難しくて」。ときには体調不良や事務仕事などに追われ、「1本をつくるのがやっと」という日も出てきてしまいます。でもそんなときも「1本しかつくれなかった」と責めるのではなく、「それでも1本つくれたなあ」と自分をほめるように。そんな切り替えも、長く楽しく仕事を続けるコツでもあるようです。

 

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宮薗さんが「ものづくり」に興味を持ったのは、一浪しての大学受験を控えた19歳のとき。木で菓子型をつくる京都の伝統工芸士の仕事ぶりを記録したドキュメンタリー番組をテレビで見て、「私もやってみたい」と思ったのがきっかけでした。「職人になりたい」という夢を、ご両親は大反対。その代わり、工芸全般からグラフィック、建築設計など、ものづくりを幅広く経験できる大学に進みました。卒業制作は漆を施した木の器。無意識に木を選んだのは、かつて見た菓子型職人さんの姿が、どこか頭に残っていたからかもしれません。

 

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「ものづくりは、2年離れたらお終いだぞ」。学生時代に教授から言われたそのひと言がずっと頭にあり、卒業後は一般企業にとりあえず就職しながらも、細々と木工での作品づくりを続けていました。その後もカフェスタッフ、大学の受付、中央省庁でのアルバイトと、職を転々とする日々。しかしそのさなか、働きすぎで体調を崩し、故郷の鹿児島に戻りって数か月も寝たきりになってしまった時期がありました。

 

「外にも出られない、起き上がれない。布団に横になりながら、『私、死ぬかも』という考えが頭をよぎったときに、『やりたいことをやらずに人生が終わるのはイヤだ!』と、強く思ったんです。そして、『もし元気になって東京に戻れるなら、私は絶対、木工作家になる』と、何の根拠もないのに、自分自身で決めたんです」

 

病から復帰した宮薗さん、「今の自分は失うものは何もない、ただ前に進むのみ」と、大きく吹っ切れ、行動も変わりました。それまでは真面目で慎重派だったはずなのに、当たって砕けろの猪突猛進タイプに。ご縁があった家具職人さんの教室で木工を学び直し、さまざまなグループ展やワークショップにも参加して。その後の数年間は、まさに「駆け抜ける」という言葉がふさわしい日々。ただひたすらにスプーンと向かい合ってきました。

 

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「同じアイテムばかりつくっていて、飽きないの?」とは、よく向けられる質問らしいですが、そういった思いは一切ないそうです。前編でご紹介した定番スプーンのうち、「これが完成形」と満足しているのは、実は「ベビースプーン」だけ。その他のスプーンは、「もっとよいかたちがあるのではないか」と、マイナーチェンジをくり返しているのだそう。

 

「スプーンって、普段みなさん無意識に使っているものだけど、大きさや形など、それぞれにこだわりを実は持っていたりするです。そしてどんなスプーンを使うかで、大げさでなく料理の味わいが変わったりもするので、本当に面白い。知れば知るほど、スプーンの深みにはまってしまった感じです(笑)」

 

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そんな宮薗さんが、影響を受けたという本がこちら。鹿児島で療養中に、お姉さまからプレゼントされた、石井ゆかりさん著の12星座シリーズの1冊です。宮薗さんの星座である獅子座の本質や、持って生まれた才能、生きる上での心構えやこの先の占いなどが記されています。単なる占い本ではなく、人の背中をすっと押してくれるような、常に前向きで温かな励ましに満ちた本。宮薗さんも、落ち込んだとき、迷いがあるとき、確認作業のようにページをめくっては、この先の「自分のあるべき姿」を思い描いているそう。

 

「言葉から受ける影響って大きいですよね。自分も言葉によって、心がおだやかになったり、逆に傷ついたりもするタイプなので、石井さんの言葉には、常にいい影響を受けていると思います。自分もかたちは違えど、スプーンを作りながら『なにかを伝える側』の人間でありたいと思っているので、日々のごはんの時間が楽しくなるような、常にうれしい気持ちや、温かな想いをのせられたら……と、思っています」

 


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Profile

宮薗なつみ(みやぞの・なつみ)

茨城大学教育学部情報文化課程生活デザインコース卒業。一般企業に就職したものの、ものづくりへの想いがふくらみ、制作を再開。2011年「miyazono spoon」を立ち上げる。個展・グループ展で作品を発表するかたわら、スプーンづくりのワークショップなども各地で精力的に行っている。http://miyazonospoon.jp/

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