繊細な糸で綴る可憐なアクセサリー~「väli(ワリ)」水野久美子さん(前編)

”つくる人”を訪ねて
2017.03.16

生活道具からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載、今月は『ナリュリラ』本誌でモデルとしても数回ご登場くださっている、アクセサリー作家の水野久美子さんのお話を伺いました。

Photo:有賀 傑 text:田中のり子

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水野さんの自宅兼アトリエにお邪魔して、まずが制作の様子を見せていただきました。そのとき手にしていたのは、超極細針と呼ばれるレース針。23号は何と太さ0.45ミリ。今にもからんでしまいそうな、40番手、50番手といった細い糸を使っています。

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こちらの糸は、新潟の藍染め工場で見つかったというデッドストックの綿糸。黒に近い紺色の糸に、かすみ草のような淡水パールをところどころに編み込んでいます。あまりにも細やかな編み目なので作業する手も目もかなり疲れそうですが、3~4時間一気に集中して編み上げることも多いのだとか。「仕上がった編み目がどうしても気に入らない」ということがあれば、潔くほどいてしまうこともあるそうです。

「アクセサリーって、不思議なアイテムですよね。身につけるだけで気分がぱっと明るくなったり、お守りのようにパワーをもらえたり。だからこそ、『そんな細かい部分まで?』と思われるような部分でも、手を抜かず大切に作りたいと思うんです」

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まるで花びらのような細やかなニットのパーツがつらなり、首元を彩るネックレスになりました。あまりにも緻密なので、一見「これはプロダクトなの?」と勘違いをしてしまうお客さんもいるようですが、れっきとした手仕事。「ニットのアクセサリー」というと、どうしても「ほっこり」としたイメージにを思い浮かべますが、水野さんの作品は、ハンドメイドならではの温かみがありながら、甘くなりすぎず、シャープさや洗練を感じられるバランスなのです。

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こちらはアコヤパールをニットで包み、長めのチェーンをつけたアメリカンピアス。チェーンの位置は自分で調節可能で、パールが揺れるよう垂らしてつけるのもおすすめ。清楚なパールと強さのある濃紺ニットのコンビネーションが新鮮です。

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同じようなモチーフも、赤の糸で作ると印象がガラリと変わります。こちらのネックレスはチェーン部分を長めに。チャームがある部分をあえて顔の近くに持ってくると、表情も明るく見えるとともに、ほどよいこなれ感も生まれます。


化粧品メーカーの美容部員、建築設計会社の社員、中古車販売会社の事務経理など、さまざまな職業を経験してきたという水野さん。「何か手を動かす仕事をしてみたい」と、ジュエリー専門学校の門戸をたたいたのは、何と37歳のとき(!)。一般的に考えると、かなりの遅咲きと思えそうですが、当時を振り返えると、「とにかく学校に行くことが楽しくて、楽しくて」と笑います。

「その前まで、お正月を除いてほぼ休みなく働く……というのを6年間続けていました。それが諸事情で仕事を辞めなくてはいけなくなり、ぽっかりと時間が空いてしまったんです。少し燃え尽き症候群みたいになってしまって。『次は自分ひとりでできる仕事がいいな』『何かものをつくる仕事をしたいな』とぼんやり考えたのがきっかけ。『作家になって一本立ちする』とか、そんな大それたことも一切考えていなくて……本当に世間知らずだったんですね(笑)」

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それまでは「人にすすめられて」「何となく世間のルールに従って」、進路を選んできてしまったという水野さん。そのせいか、いつもどことなく所在なく「自分はこれでいいのかなあ」と思う一方で、「何かに夢中になって、それを究める」という経験をしたことがなったと言います。

「たぶんそれまで、自分の人生を心から『楽しむ』というのをしたことがなかったんですね。でも学校に通ってみたら、何もかもが新鮮で、ひとまわりもふたまわりも年下の子たちに囲まれながら、手を動かすことがひたすら楽しかったんです。その歳になって『あ、青春来ちゃった』という感じでした(笑)」

アクセサリー作りの楽しさに目覚めたものの、貴石をたくさん使うような、きらびやかなジュエリーには何となくなじめない思いを感じていたときに出会ったのが、オランダのフェリカ・ファン・デル・リーストと、ドイツのオットー・クンツリという、ふたりのコンテンポラリージュエリー作家の作品でした。

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ポップで破天荒、アートピースとして発表されているふたりの作品はどれも「ジュエリーとはこうあるべき」という固定観念を払ってくれるような、自由で生き生きとした発想に満ち溢れていました。特にフェリカの作品にはふんだんにニットが用いられており、水野さんに大きなインスピレーションを与えてくれたのです。

実はご実家は、おじいさま・おばあさまの代から続くニット工業を営んでおり、子どもの頃から毛糸には親しみがあったという水野さん。けれど子どもの頃は「私もマフラー作ってみたいな」と言えば、翌日にはお父さまが「はい、これ」と完成品を渡してくれるような環境で、自分自身で編み棒を握るようなことがなかったそう。けれども十数年の時を経て、ご自分のバックボーンと今の創作意識が、まるでボタンがはまるようにカチリと結びついたのです。

 

“つくる人”を尋ねて 繊細な糸で綴る可憐なアクセサリー~「väli(ワリ)」水野久美子さん(後編)につづきます。

Profile

水野久美子(みずの・くみこ)

会社員などを経て、ジュエリー専門学校「ヒコみづの」卒業後、2012年よりアクセサリー作家としての活動をスタート。2017年3月18~25日の日程で、神奈川県横浜市のセレクトショップ「アナベル」で開催される三人展「アイとサクラ」に参加予定。http://vali9.com/

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