目の前主義のおへそ ― たかはしよしこさん、前田 景さん Vol.2
美瑛の自然を撮り続けた
祖父の足跡を追って移住。
誰かに頼まれたわけではないけれど
その縁を大切に
この地で発見したことを発信したいんです。
一方、景さんにとっての大きな転機は、フィンランドを代表するデザイナー、タピオ・ヴィルカラのサマーハウスを訪ねたことでした。
「娘さんに話を聞いたのですが、ご両親は自然のささやかな変化に敏感に気づいて日記をつけていたそう。すべてのノイズをカットして、生活と制作に集中する時間を1年の半分持つことで、作家としても人間としても、多くのインスピレーションとコンセントレーションを得られたのかも。僕も東京で仕事に追われて、あっという間に時間がたって……。ここ美瑛で何ができるか、まずは、住んで感じてみようと思ったんです」
週末になると、娘の季乃ちゃんと遊ぶために、自宅の庭にテントを張ります。枯れ枝や落ち葉を拾ってたき火をすると、パチパチと木の爆ぜる音を聞いているだけで、いつもとは違う心のパーツが動き出すよう。
「『拓真館』を継ぐことは、誰かに頼まれたわけじゃない。だから、それが一番の目的じゃないのかもしれません。ここで生活して発見した何か。きのこを見つけるワクワクだったり、たき火の音で落ち着くことだったり……。そういう自分たちが『体でわかったこと』を伝えていけたらなあと思います。その一部に『拓真館』があって、よしこの料理があって、自分の写真がある。その全体をつなげていくのが、僕の『デザイン』という仕事なのかなあと思っています」と景さん。
今年じゅうには、地元の野菜を中心にしたレストランをオープンする予定。
「ここに来た意味を、来ちゃってから考えている感じ」と語るふたり。
そんなふたりの「目の前主義」のおへそから、何がぽろりと生まれ出るのか楽しみです。
買うより作る
パン作りはかき混ぜて待つだけ。
自分ができる方法を
見つけていくプロセスが楽しい。
(左)北海道に引っ越してから、近所にすぐ買いに行ける店がないので、パンを手作りするように。友人に教えてもらい、全粒粉とスペルト小麦、美瑛の強力粉「ゆめのちから」を混ぜて酵母を起こす。3日間ゆっくり低温発酵させる。(右)型に入れて2〜3時間温かいところに置いて1次発酵させる。
3〜4日に一度焼いて朝食に。
コーヒーは夫担当
(左)結婚前から、よしこさんの家にコーヒーをいれに行っていたという景さん。今も朝のコーヒーをいれる役割。(右)朝食は、パンと手作りの栗ペースト、ハスカップとラベンダーのジャムで。
暮らしのなかにレジャーを持ち込む
庭にテントを上手に張る方法や
まきがパチパチと爆ぜる音。
遊びのなかの発見が宝物。
晩秋の庭には、黄金色の落ち葉が敷き詰められる。新型コロナウイルス感染症の影響で、キャンプに出かけられなかったので、庭にテントを張ってキャンプごっこを。景さんは、たき火をおこすのもお手のものに。
スクールバスで小学校へ通う季乃ちゃん。いちばん近い友達の家まででも約2キロあるので、帰って来ると、よしこさんや景さんが遊び相手を務めることが多い。縄跳びをしたり、自転車に乗ったり。たき火をしながら、焼き芋を焼いて、おやつタイムを過ごすことも。
photo:有賀 傑 text:一田憲子
『暮らしのおへそ Vol.31』より
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Profile
たかはしよしこ、前田 景
よしこさんは、ケータリングを中心に料理家として活動。2012年に開いたフードアトリエ「S/S/A/W」で、月に数日の「エジプト塩食堂」の営業、予約制のディナー、「エジプト塩」をはじめとする調味料の開発、製造を手がける。景さんは、デザイン事務所、広告代理店勤務を経て、現在は祖父の作った会社でアートディレクター、フォトグラファーとして活動。20年に北海道・美瑛町に移住。娘と3人暮らし。
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