ライターまさこの「~福岡・糸島~日常三十景」日替わりエッセイ第二弾まとめ【後編】

~福岡・糸島~ 日常三十景
2023.07.01


ライター・わたなべまさこさんに福岡・糸島の魅力を1か月間綴っていただいたデイリーエッセイ「ライターまさこの ~福岡・糸島~ 日常三十景」の第二弾。#31~#45の前編に続き、本日は#46~#60までをまとめた後編をお届けします。


 

#46 島ザラメで梅シロップの仕込み


数年前、ジッパー付き袋で梅シロップや梅干しがつくれると知ってから、ぐっと身近になった梅仕事。氷砂糖が王道ですが、私は好奇心から毎年砂糖を変えて実験しています。去年は黒糖、今年は何にしようかなとスーパーの棚を眺めていたら、鹿児島県喜界島産のさとうきびを精製せずに結晶化させて作ったお砂糖、「島ザラメ」を発見。このコラムが公開されるころには、炭酸割りや豆乳割りを楽しめているかしら。梅パワーで夏を乗り切りたいです。

 

#47 「なおす」の地位


「片付ける」を西日本では「なおす」と言うのは有名で、私も移住前から知っていました。でも、図書館で壁に掲示されたプラスチックの常設看板に「本はもとの場所になおしてください」と印字されていたのを見たときに「あっ、話し言葉というより、もっと公式なんだな……!」と衝撃だったのを覚えています。今では自分も子に「それ、なおしとってー」と言っていることも。「片付けて」より口をだらんと脱力して言えるので、楽なんですよね(笑)。

 

#48 春の訪れはスナップエンドウから


1月の中旬ごろから野菜売り場の一角に登場するスナップエンドウを見かけると、「あ、春が来る!」とわくわくするようになりました。全国で見かける野菜だと思いますが、こちらは春先の流通量がとても多くて、スナップエンドウをずらりと並べたような特設コーナーが設けられていることも。生産量のトップは鹿児島県、2位の熊本とあわせて全体の7割を占めると聞いて、なるほど納得。パキッとしたあの歯ごたえと自然な甘み、好きなんです〜。

 

#49 バス停、並びません


東京都心が地下鉄文化なら、福岡都市部はバス文化。博多や天神ではバス路線が多岐に渡り、バス停自体も多いうえ、それぞれのバス停に異なるルートのバスが次々とやってきます。つまり列が意味をなさないので、皆、並んだりしないんです。写真は昼間なので空いていますが、帰宅ラッシュなど大勢がひしめく時間帯も同様。そしてお目当てのバスが来たらどこからともなく入り口に押し寄せる……その自由さ、ちょっと海外感あって好きです。

 

#50 何はさておき、ごぼう天


福岡でうどんのトッピングといえば、ごぼう天。うどん屋ではもちろん、一般的な食堂においても「とりあえず絶対ある定番メニュー」が、海老天やかき揚げでなく「ごぼう天うどん」なことが、移住当初は不思議でした。調べてみたら、発祥は明治〜戦前まで福岡・天神にあった「乙(おと)ちゃんうどん」では、と言われているそう。1つのお店の味が地域の文化になっていくのロマンがあるなあと、うどんをすすりながら思いを馳せてしまいました。

 

#51 田植えに参加


知人の誘いにのって、田植えに参加してきました。柔らかい泥の中にずぶずぶと入り、田植え紐で間隔の目印をつけて、稲の苗をぐっと差し入れて……。体力は使うけれど、手足に触れる泥の感触や山々の景色に、心はなんだか癒やされます。最初は恐る恐るだった子も、やっぱり泥は楽しいのか、熱心に植えていました。近場にこうやって気軽に参加できる開けた機会が多いこと、ありがたいなぁ。草取りや収穫も、できるかぎり参加してゆきたいです。

 

#52 ケータロさんのカレーに舌鼓


「糸島の顔がみえる本屋さん」の軒先出店、この日はケータリング・ケータロさん。東京の飲食業界で20年ほど経験を積まれた後、8年前に糸島へ移住してきたそう。化学調味料を使わず、できるかぎり地元の食材を使ったグリーンカレーに、ご友人のパクチー農家から仕入れたパクチーを(好みを聞いてくれたうえで)どっさり!嬉しい! カレーと頬張ると、脳内にタイの光景が見えました。本当に美味しくて、幸運な本屋のお店番Dayでした。

 

#53 あくまきって何ぞ


鹿児島のローカルおやつ、「あくまき」をいただきました。灰汁(あく)に浸したもち米を竹の皮で包み、灰汁で数時間煮込んでつくられるのだそう。アルカリ成分が雑菌の繁殖を抑えて長期保存できるようになるとは、まさに先人の知恵! 腹持ちがよくて戦陣食に用いられたから、たくましく育つように、と端午の節句に食べるようになったとか。知らない食文化、まだまだたくさんあるなぁ! 黒糖ときなこをかけて、初めての風味を楽しみました。

 

#54 冬はけっこう冷えます


夏は「暑そう」なイメージそのままに暑い福岡ですが、冬は想像より、きっと寒いです。東京から来た友人が「暖かい所にいくつもりで来たんだけど!」と薄着を後悔するのを、何度か見ています。地図で見ると、緯度は思ったほど関東と変わらないんですよね。でも「福岡は九州だから南」って思いがち! 私もそうでした(笑)。実際は、昨冬も大寒波が来ていたし吹雪いてました。みなさまも冬にお越しの際は、服装と心構えのセットにご注意を〜。

 

#55 おきゅうと


福岡に来るまで存在を知らなかった「おきゅうと」。スーパーの鮮魚コーナーに、パッと見、緑色のういろうみたいな塊が並んでいるのを見て、これ何っ?!となっていました。おきゅうとは、海藻のエゴノリを干し、煮溶かして小判型に固めたもの。語源は諸説あって、飢饉の際に作られたから「お救人」とも、漁師が生み出したから「沖人」とも言われているとか。ところてんより少し柔く、涼やかな色とつるりんっとしたのどごしが、夏にぴったりです。

 

#56 田作りがきびなご


ちょくちょく登場しているお正月ネタですが、もうひとつだけ。年末にスーパーで「田作り」と印字されているものを買ったんです。帰ってよく見たら、原材料名はおなじみ「カタクチイワシ」じゃなくて、「きびなご」でした! きびなごの漁獲量は九州が多いと聞き、なるほどこれも土地柄だなぁと思ったり。無塩のミックスナッツも加えて調理し、おせちの一品に。きびなごのほうが苦味が少ないのか?、子どもが気に入ってパクパク食べていました。

 

#57 福岡に「出る」


千葉出身の私が東京に「出る」感覚を持つように、九州の人は福岡に「出る」感覚があるということも、住んでから初めて知ったことのひとつです。実際、房総出身の私にとっては、天神や博多は新宿や銀座みたいな大都会。ちなみに熊本出身の夫に来福前の印象を聞いてみたら、「東京は日本の最大都市で、福岡はアジア圏を見ている都市って感じ」と言っていました。こういう感覚は、観光ではなかなか見えてこない、地方の面白さかもしれません。

 

#58 お気に入りの塩


九州に越してから、調味料も地元産を選ぶようになりました。お土産としても知られる「またいちの塩」は、わが家の台所でも普段から欠かせない存在。ぎりぎりとした塩っ辛さがなく、まろやかなのに旨味のある味わいがとても気に入っています。海辺の製塩所もロケーション含め素敵なので、福岡へお越しの際にはぜひ足を伸ばしてみては。具材がないから塩むすびじゃなくて、塩を味わいたいから塩むすび。そんな気持ちにさせてくれるお塩です。

 

#59 鶏つくねの竹筒と竹べら


福岡名物として水炊きは有名ですが、お店で水炊きを頼むと、さも当然のように竹筒に美しく盛られた鶏団子のたねが運ばれてくること、越した当初はとても新鮮でした。水炊き専門店だけではありません。写真は温泉の食堂で、いちメニューとしてある水炊きを頼んだときのもの……その浸透度を感じます。温まった鍋のスープにぽとり、ぽとりと竹べらで鶏団子を落としてゆくひと手間も、竹の手触りも、なんだか風情があってよいものです〜。

 

#60 糸島富士、可也山へ


ある週末、自宅から車で20分ほどで行ける可也山(かやさん)に子連れプチ登山してきました。標高は高くないけれど、美しい形の独立峰であることから、糸島富士や小富士とも呼ばれてきたそう。道のりは木の根っこが網の目のように巡っていて、生命の神秘を感じました。トレーニングなのか、走って登り降りする常連と思しき方々も。運動不足の私は、下山の最後には膝がクククと笑ってしまい……疲れはスーパー銭湯で癒やして帰りました(笑)。

 


 

【~福岡・糸島~ 日常三十景】
福岡の街と糸島のあいだあたりに越してきて、数年が経ちます。この連載では、関東出身の筆者が移住して初めて知ったこと、日々の暮らしの中でおもしろいと思うことなど、観光とはちょっと違う“ふだん着の福岡・糸島暮らし”の一部を、日常三十景としてお届けします。昨年秋の第一弾におさまりきらず、なんと第二弾。どうぞゆるりとお付き合いのほど。

Profile

わたなべ まさこ

千葉、東京、フィジー、オーストラリア、湘南暮らしなどを経て2016年より福岡へ。現在は福岡・糸島界隈を拠点にフリーライターとして活動。企業案件からエッセイ・短歌・絵本まで。「糸島の顔がみえる本屋さん」棚オーナー。海辺と本とおいしい野菜が好き。

 

Instagram:もぐもぐエッセイ(@mogu2bun)はじめました
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