精進料理「iori」vol.3「ハレの日のごはんは、手間のかけ方を変えて」
「さあ、今日はごちそう!」という時、通常はワインを開けたり、いいお肉を奮発したり。では、精進料理の場合はどうなのでしょう? そう尋ねると、ふたりはちょっと考えてから、こういいました。
「私たちは〝手間〞で頑張るの」
いつもは丸ごと使っている野菜も、皮を丁寧にむいて、きれいに面取りをし、よそゆきに仕立てます。普段よりも少しだけおめかしした野菜たちは晴れがましく、ごちそうの楽しさが食卓に漂います。
この日作ってくれたライスケーキは「iori」のおもてなし料理の十八番。しっかり味つけをしたしいたけ煮、炒り卵、すし飯がきれいな層になるようにケーキ型に詰め、どーんと大皿に抜くのです。そして、そのまわりに面取りしたゆで野菜を並べて……。楽しくおいしい宴の始まりです。
肉も魚も食べられない。お酒も飲めない。そんなふうに、精進料理に対して「ない」をカウントし、不自由だと考えるのはもったいないこと。ふたりは、なんの我慢もせず、決まりに縛られることもなく、自由に食を楽しんでいます。これは食べられないけれど、だったらあれがある……。制限のない中、思うに任せて料理をするよりも、工夫と意欲に満ちているのです。
「今では考えられないけれど、昔は料理が嫌で仕方なかったの。レパートリーも少なくて、料理上手の夫に教えてもらっていたくらい。なのに、今では人に教える立場だなんて、不思議ですよね。人間は、いくらでも成長ができるんだなって思います」と五月さん。
野菜や海藻、発酵食中心の「健康の素みたい」な食生活になり、とにかく体の調子がいいと胸を張ります。
「昨年の猛暑で、まわりがどんどんバテている中、私たち姉妹は夏バテ知らずだったのよ」
教室を始めて12年目に突入。ここ数年で著作を立て続けに出したり、テレビ番組に出演したりと「iori」の活動は広がっています。肩に力を入れすぎず、自分たちが気持ちいいと感じる精進料理の暮らしを、少しずつしなやかに広げていければと考えています。
「必死に仕事をこなし、子育てに一生懸命だった頃の〝バリバリ〞は、精進料理の生活を始めた時点で卒業しました。〝バリバリ〞から降りてみたら、ぐんとラクになったの。とはいえ、それらの時期を経たからこそ今がある。だから60代後半、これからどう生きるかというのは最大のテーマです。人としてもっともっと成長したいし、ひとりでも多くの人に精進料理が伝わればうれしいですね」と五月さん。
細かいことを気に病まず、イライラしないように気をつけているというふたりですが、日常で難儀なことはもちろんあるわけで……。
「たとえば、昨年の夏は暑さのせいもあって、教室を開いても生徒さんがあまり集まらなかったんです。でもそれが、いろいろ考えるいいきっかけになりました。原因は天候以外になかったかな、今までの私の言動は大丈夫だったかなって。いい時は、なかなか自分や全体を客観的に見ることができないもの。悪い時こそ、成長できるタイミングなんです」
「“これから”の暮らしと食卓」より
photo:濱津和貴 text:鈴木麻子
Profile
「iori」
7人兄弟の長女・園部曉美さんと、次女・中園五月さんの姉妹で「iori」として活動。神奈川・茅ヶ崎を拠点に各所で料理教室「精進料理の会」を開催している。『おばあちゃんの精進ごはん』(インプレス)などの著書がある。
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