「ただ、いる、だけ」は価値がある。 ― 臨床心理士・東畑開人さん vol.2

暮らしのおへそ
2019.12.17

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「いる」って何だろう?
誰かに依存して、ボーッと、無防備に、
その場に身をゆだねている状態です。
「いる」がつらくなると
僕らは「する」を始めます。

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「いる」がつらくなるとき
僕たちはたいてい自滅しています。
誰にも「いるな」と言われていないのに
「ここにいる価値がないんじゃないか?」
とささやく自分自身の声に負けて
「いられなく」なってしまうのです


──時計を見ると、まだ勤務が始まって一時間も経っていない。「なんてことだ! 座っているのがこんなに難しいとは!」大学院に五年も通ったというのに、誰もデイケアで「ただ座っている」方法を教えてくれなかったのだ。(『居るのはつらいよ』)──

「ただ、いる、だけ」の時間が延々と続く日々を過ごしているうちに東畑さんは「それでいいのか? それ、なんか意味あるのか?」とささやく自分の声に追い詰められていきます。どうしてそんなにつらかったのでしょう?

「不思議ですよね。誰にも『いるな』と言われたわけではないのに、僕はいるのがつらくてしょうがなかった。デイケアという特別な場所だけでなく、居心地が悪くてつらいとき、僕たちはたいてい自滅しているんです」

自滅とは、自分が役に立っていないと〝勝手に〟思い込み、そこにいることに意味がないんじゃないかと落ち込んでしまうこと。たしかに、SNSで素敵な投稿を見て「それに比べて自分は……」と落ち込んだとき、仕事で成果が出せなくて家に帰りたくなったとき、さまつな家事に追われて休日が過ぎていったとき。誰に責められたわけでもなく、そこにあったのは「役に立っていない」という自責の念でした。


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「暮らしのおへそ Vol.28」より
photo:興村憲彦

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Profile

東畑開人

Kaito Touhata

1983年生まれ。臨床心理士。2010年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了後、沖縄の精神科クリニック勤務を経て14年より十文字学園女子大学専任講師に。17年、白金高輪カウンセリングルームを開業。著書に『野の医者は笑う』『日本のありふれた心理療法』(共に誠信書房)ほか。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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