第2回 大久保ヒロミ『すみれ先生は料理したくない』の「じゃごりこリゾット」

料理とお菓子と女子マンガ
2020.12.29

編集長の小田です。またの名を女子マンガ研究家の小田真琴です。ややこしくて申し訳ないのですが、詳しくは第1回をご覧ください。

【料理とお菓子と女子マンガ】第1回 須藤佑実『夢の端々』の「アイスクリーム」

さて、今回ご紹介するのは、大久保ヒロミ先生の『すみれ先生は料理したくない』(ぶんか社)です。正直なところ、料理がお上手な方ばかりが集まるこのサイトで紹介するべきかどうか悩んだのですが、あまりにおもしろく、そして示唆に富む作品ですので、ぜひお読みいただきたく思うのです。

主人公の白雪すみれはピアノ教師。自然とにじみ出る品の良さと、柔らかな人柄、そして美しい容姿で、周囲の評判は上々です。

ⓒ 大久保ヒロミ/ぶんか社

それがために周囲からは「女らしい」イメージを勝手に押しつけられていますが、しかしその実、すみれ先生は料理が超苦手。クタクタになって帰宅し、「何かを食べなくてはいけない…」と、ネットでレシピを検索して、3ステップで作れるという肉じゃがのレシピを見つけるのですが…。

「切ったじゃがいもは水に浸けておく」でプラス3ですね ⓒ 大久保ヒロミ/ぶんか社

と、キレたりします。これは非常にありがちな“レシピあるある”で、余談ですがほかにも「15分でパパッと作れる!」と謳っておきながら実は下準備の時間を極端に短く見積もっていたり、「100円節約おかず」と謳っておきながら実は米や調味料の金額は計算外だったりするレシピは少なくありません。私どもも気をつけてはおりますが、「他山の石を以て玉を攻むべし」であります。

そうしてくたびれ果てたすみれ先生は、得意のピアノにその哀しみをぶつけるのでした。

いきいきしています ⓒ 大久保ヒロミ/ぶんか社

最終的に作り上げた夕食がこちら。

じゃ「ご」りこリゾット ⓒ 大久保ヒロミ/ぶんか社

おなじみのあのスナック菓子に、ご飯とお湯とピザ用チーズを入れてぐちゃぐちゃと混ぜるだけという、究極のズボラめしです。同じスナック菓子で作る「じゃがアリゴ」というレシピがネットで一時期流行りましたが、それに近いものでしょう。ひと口食べて「あああっ…おいしい〜〜〜!!」と感嘆するすみれ先生は、包丁もまな板も食器も要らないこの料理はレストランで食事したのと同じだ、それはすなはち「あなたは私の三ツ星シェ〜フ〜」であると、高らかに歌い上げるのでした。

テレビドラマ化もされた傑作『人は見た目が100%』(講談社)でも見られたように、大久保先生は女性たちが世間一般からなんとなく押しつけられる「女らしさ」のようなものを分析して、笑いにまで昇華させるのがとてもお上手です。本作でもその才能は存分に発揮されており、何度読んでも笑わされてしまうのですが、そこには重要な問いかけも内含されていました。それは「なぜ女ばかり料理ができて当然と思われるのか」という、ジェンダーの問題であります。

改善されつつあるとは言え、昭和の「私作る人、僕食べる人」の時代から、価値観をまったくアップデートできていない人も、まだまだ多数存在します。なにしろテレビでは未だに、料理が苦手な女性タレントに料理を作らせ、その様子を男性タレントが見て笑うといったような野蛮な企画が、全国ネットで放送されるような国です。

すみれ先生が生きているのは、そんな世界なのです。心の中では「料理ができなくてなにが悪い!」と思いながらも、周囲から期待されるイメージとの狭間で悩み続けてしまうすみれ先生。本作の笑いどころが、すみれ先生が料理下手な点ではなく、すみれ先生が現実と見栄との間で苦しむ様子であるのは、非常に重要なポイントです。彼女を苦しめているのは「料理」ではなく、「女ならば料理ができて当然」という社会の風潮であるからです。

先生、早くラクになって…!と、老婆心ながら願わずにはいられないのですが、“料理が大好きな白馬の王子さま”を探し続けるすみれ先生がはたしてどんな結論を出すのか、続刊を楽しみにしつつ待ちたいと思うのでした。

それと同時に料理編集者としては、すみれ先生のような読者の存在を忘れてはいけないとも思います。ついついわかっているつもりで、「バターは常温にもどし、やわらかくする」なんてさらっと書いてしまいますが…。

この様子がマンガ化されているのを初めて見ました ⓒ 大久保ヒロミ/ぶんか社

押すと指がすっと入るくらいにやわらかくしておかないと、このようになってしまいます。

のみならず次のページですみれ先生は、バターを電子レンジで加熱してやわらかくしようとするのですが、加熱しすぎてどろどろに溶かしてしまいます。そういうときは、バターをラップに包んでなるべく均一な厚さの板状にし、5秒くらいずつ加熱して、様子を見ながらやわらかくしましょう(編集長のひと言アドバイス)。やはりレシピは丁寧に書くべきだという認識を新たにした次第です。

「いつも心にすみれ先生を!」という心意気で、料理編集者としての私は、来年も頑張っていきたいと思います。LINEマンガで試し読みもできますので、ぜひご一読を。

 

text 小田真琴

女子マンガ研究家。主に女性誌やウェブで大人の女性向けのマンガ=女子マンガを紹介。無人島に1冊だけ持っていくなら『ガラスの仮面』23巻と心に決めている。女子マンガの手帖

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