稲田多佳子さんの『ほんとうに作りやすい焼き菓子レシピ』/3回目

料理本製作の裏側〜よもやま話
2021.07.01

こんにちは、編集部の足立です。料理編集者歴10ン年となる私、今まで作らせていただいた本の製作にまつわる裏話をご紹介させていただいております。よろしくお願いいたします。

前回の【料理本製作の裏話〜よもやま話⑤】ほんとうに作りやすい焼き菓子レシピ/2回目はこちら

さて、私が最初に作らせていただいた焼き菓子の本、稲田多佳子さんの『ほんとうに作りやすい焼き菓子レシピ』(2004年発行)。カメラマンはたかこさんご自身、デザイナーは憧れのレスパースの若山嘉代子さんと若山美樹さんと、スタッフも無事に決まり、ようやく実作業に入ることとなりました。


お菓子製作=たかこさん、スタリング&撮影=たかこさん、原稿執筆=たかこさんという、製作⇒オールたかこさんという本のため、たかこさんの負担は相当のもの。まずはスケジュールを立て、細かく締め切りを決めて、たかこさんにお菓子製作と写真撮影をお願いすることにしました。

今のようにGigaFile便やfirestorageといった大容量ファイル転送サービスはなく、写真はすべてMOに入れて、京都から宅配便でお送りいただくことに。その写真の枚数が半端ではなかった! 

やさしく、気遣いの人であるたかこさん。お菓子ひとつといっても、縦位置、横位置、斜めのアングルから。スタイリングも、シンプルにカッティングボードの上で、エレガントなお皿にのせて、ティーカップとともに…といろいろ変えて。ケーキならホール、ひと切れ切って、ほろっとフォークでくずして、ラッピングして…と、あとでデザインしやすいようにと、バラエティ豊かにたくさんの写真を撮影してくださったのです。


こちらがMO。これは解像度を下げた写真を、私が新たなMOに保存したもの(のごく一部)

印刷して本にするのに耐えられるよう、解像度の高い状態で撮影してくださっているため、1枚あたり230MBのMOにはそれほどたくさんの写真は収まらず、毎回送られてくるMOの枚数は大変なもの! さぞかしその撮影とMOに焼く作業には、時間と手間がかかったことと思います。。

そして、それをデザイナーの若山さんにお渡しする前に、私がやらなくてはならない大事な(そして唯一の!?)仕事が、写真を扱いやすい軽いデータにすること!(でないと、膨大な枚数の写真をデザインデータに貼り込む作業は、とんでもなく時間がかかり、またデザインデータが非常に重たいものになってしまうからです)。

当時はアドビの「Illustrator」しか会社のパソコンに入っておらず、それを使って1枚1枚(文字通り1枚ずつ!)手作業で解像度を下げる作業は、ものすごく時間がかかるものでした。それをコンタクトシート(写真の縮小版を一覧にしたシート)にしてプリントアウトするのも(今ならワンクリックで一度にできますが)、1枚1枚写真を読み込んでは、サイズを調整して作成するという、気の遠くなるような作業…(何度、マウスを操る指がつりそうになったことか。。汗)。

4月15日発売だった、たかこさんの焼き菓子本。写真などのすべての材料をレスパースさんにお渡しするのは、年明け早々がデッドライン。というわけで、年末最後は、たかこさん本の写真整理にかかりっきりの日々でした(シリーズは5冊まで続いたので、5年間はずっとそうでした。懐かしい!!)


たかこさんの焼き菓子シリーズは、このほか4冊。焼き菓子をずらっと並べたカバーが印象的です

もしかしたら、もっと手早くできる方法があったのかもしれませんが、当時の私は(今も十分…?)完全なパソコン音痴。誰かに教えてもらったこの方法がベストと信じ込み、コツコツパソコンに向かっては、夜遅くまで作業していました(ああ、若いってすばらしい! 今はそんな体力は、もうなさそうです…涙)。

さて、ライターの相沢さんとともに、レスパースさんに写真とコンテ(全体の構成や写真の順番などを書き入れたデザインの指示書)などを持って打ち合わせに伺い、次の作業として、章のトビラ用にどんな写真をたかこさんに撮影してもらおうかという話になりました。

すると若山さん、「クッキーで数字を作ってもらうっていうのはどうかしら?」とすばらしいアイデアを! こうして実現したのが、こちらの章トビラ写真なのです。


 
たかこさんが、数字の型で抜いて焼いてくださったクッキー。ココア生地のミックス具合も絶妙ですよね。レシピもついています


たかこさんにはざっと、「こんな感じで、文字用のスペースをあけて写真を撮ってほしい」というお願いをお伝えはしましたが、さすがたかこさん! このように数字のクッキーの並べ方を少しずつ変えつつ、1〜6章までの6パターンの写真を撮影してくださいました。その写真のかわいさといったら! 届いたMOを開くたびに手が震えました…(今見てもやっぱり抜群にかわいい!!)

そうこうするうちに、レスパースさんからデザイン案が上がってきました。それがこの、ノート風の罫線が入ったもの。サイドのアクセントの縦の線は、絶妙な赤! ややややっぱり勇気を出して、レスパースさんにお願いしてよかった!!と、自分を褒めてあげたくなった瞬間です。



たかこさんの焼き菓子シリーズ1冊目のこちらの本、テーマカラーは赤。その色は見返し(「タント」という名前の用紙です。調べてみたら、イタリア語の「tanto(=たくさん)」から名付けられた紙だそうです。カラーラインナップが豊富なのですって)にも使用されています。細部にまで渡ってかわいいですよね〜。



こちらが見返し用紙のタント。大人かわいい赤!

最後に、この原稿を書くにあたり、昔の仕事ファイルをひっくり返していたら、たかこさんから初めて送られてきたお手紙と、お菓子をお送りいただいた時のお菓子名のリスト、試しに撮影していただいた写真が出てきました!(思い入れのあるものは処分できない性分…)。あと、ファックスでいただいたメニュー案も。たかこさんの文字と文章がかわいくて、これを見ながら、ワクワクとたくさん夢を見させていただきました。あ〜、お菓子の本って、本当にすばらしいですね。

     
たかこさんの文字がなんともおいしそうで、毎回わくわくしっぱなしでした!

今まで数えきれないくらいほどくり返し作った、たかこさんの「くるみのコロコロクッキー」。当時2歳だった娘が、最近では私より上手に作ってくれます。本はもうボロボロにくたびれてしまいましたが、娘の嫁入り道具として持たせてあげたいなあと思っています。

 

【おしまい】

その他の【料理本製作の裏側〜よもやま話】はこちら

 

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