第15回 年末年始に風邪をひいてフラフラで訪れた、テキサスでのチキンスープ
私にとって、年末年始はいちばん風邪をひきやすい時期だ。毎年必ずと言っていいほど、年末年始に風邪をひく。この2年は十二分に気をつけて、どうにか免れたけれど、それまで本当に年末年始に必ず風邪をひいていた。
数年前の年末、私はアメリカ・テキサス州に友達に会いに行くことになった。年末に海外旅行だなんて、楽しみで仕方ない。12/27に成田を出て1/2に帰ってくる計画。
その年の年末は26日まで仕事があって、クタクタに疲れていた。26日の深夜、旅行の準備に追われて、ほぼ徹夜のまま27日を迎えてしまった。
そしてテキサスは日本より暖かいと聞いて、薄着で家を出てしまい、凍えながら空港に向かった。飛行機に乗ってしまえば大丈夫だと思いながら。しかし空港までの2時間で、私はどんどんどんどん具合が悪くなっていった。
まさかこんな時に風邪をひいたのか…私これからアメリカに行くっていうのに、うそでしょ…と、青ざめながら電車に揺られる。空港に着いた頃には、喉も痛くなってきた。
チェックインを済ませ薬局へ行き、のどスプレーを買った。ここで風邪薬を買えばよかったのに、当時あまり薬をのむ習慣がなくて、やめてしまったのだ。これは、アメリカに着いて最も後悔したことのひとつ。
どうにか飛行機に乗って、よし!あとはテキサスに着くまでひたすら寝れば回復するはずと思い、寝不足もあって、席に着いて私はすぐに眠ってしまった。しばらくして起きて時計を見ると、フライトの時間から2時間ほど経っていた。離陸に気づかないくらい爆睡していたのか…と思い外を見ると、なんとまだ離陸していなかったのだ。
「え、なんで!?」と思うも、一人旅だからきょろきょろしていると、アナウンスが入る。ボイラーの調子が悪く、一度降りてくださいとのこと。愕然とする。
一度降りたら、今度は「もうこの飛行機は今日は飛びません」とのアナウンス。具合は悪いし、飛行機は飛ばないしで幸先が悪すぎる。
急いでテキサスにいる友達に連絡したら、違う航空会社のチケットを取り直してくれた。
次のフライトまであと6時間。空港の椅子に座ってじっと待つ。成田について10時間経って、私はやっと飛行機に乗って日本を離れた。
途中、乗り換えのカリフォルニア空港で迷子になって焦ったり(アメリカの空港って、なぜあんなに広いのか)、まだテキサスに着いていないのに珍道中がすぎる。
テキサスの空港に着いて、迎えにきてくれた友達に会えた時は、本当に安堵した。友達に「景子、夜ごはん何食べたい?」と聞かれた。テキサスといえば、ステーキ、シーフード、タコス。旅先のごはんを食べることは、何よりの楽しみなのだが、体調不良の私にはどれもヘビー。
素直に「ちょっと風邪ひいちゃってて…」と言うと、じゃあWhole Foods Marketで何かスープでも買おうと連れて行ってくれた。Whole Foods Marketは行ってみたかった場所で、着いた途端「わ〜!!」とテンションが上がる。やっぱりスーパーは楽しい。
こちらはスーパーの駐車場。
スープの入った大きな鍋や、お惣菜が並んでいる。「アメリカで風邪をひいたらこれだよ」と、友達がチキンスープを指す。小さく切ってくたくたに煮こまれた野菜とチキン。そしてマカロニ。日本でいうお粥みたいなものらしい。おいしそう。私は迷わずそれをカップに入れてレジへ。
友達の家に行き、温め直して食べる。おいしい。長距離移動に風邪にと疲れた身体に、くたくたのお野菜とマカロニが沁みる。そこから4泊アメリカに滞在した。
体調不良といえど、せっかく来たからとアメフトを見たり、NASAの宇宙センターに行ったり、大きなショッピングモールへ行ったり、友達にいろいろな場所に連れていってもらった。
しかし風邪は全くよくなることはなく、どんどんどんどん悪化する一方。どうにか帰りの飛行機に乗って日本に帰ってきてから、3日間寝込んだ。
テキサスで食べたステーキ、ハンバーガー、シーフード、せっかく連れて行ってもらったのに、喉を痛めすぎていて、どれも味が全然わからなかった。ステーキを食べながら、絶対にもっとおいしいはずなのに…と悲しくなった。ステーキを全部食べられる体力もなくて、また帰りにWhole Foods Marketでチキンスープを買う。
お肉を食べる時は、自分に体力がないと食べられないんだということを、私はこのテキサス旅行で痛感した。そしてテキサスでのいちばんの思い出の味は、風邪っぴきのチキンスープになってしまった。
できることならば、あの時食べきれなかったおいしいステーキを食べにテキサスを訪れたい。
こちらは帰ってきてから作ったチキンスープ。
Whole Foods Marketにあった、これまた
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Profile
夏井景子
1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。
http://natsuikeiko.com Instagram:natsuikeiko
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