第3回 さくさくのメレンゲ+生クリーム+甘酸っぱいフルーツが最高!Swedenの夏の人気菓子・ピノッキオケーキ
こんにちは、北欧・スウェーデンのダーラナ地方に住むマツバラヒロコと申します。スウェーデンのフィーカ(コーヒーブレイク)のお菓子をご紹介するエッセイも、3回目となりました。今月もよろしくお願いいたします。
さて、ヨーロッパでは祝日というとクリスマスや復活祭など、キリスト教に基づいたものが多い印象があります。ここスウェーデンでも、1年の最大の祝日がクリスマスであることは疑いのない事実ですが、その次に大きな祝日は、なんと6月の夏至祭です。
日付でいうと6月の21日(年によっては22日)が夏至にあたりますが、夏至祭といっても夏至の当日ではなく、平日に盛大なパーティもやりにくいからなのか、夏至のある週の土曜日が祝日となっています。さらにクリスマスイブと同様に前夜(イブ)を盛大に祝うのが習わしとなっていることから、夏至祭というとイブの金曜日のことを指すようになりました。
学校は6月10日頃から既に夏休みに入っていますし、働いている人も多くの場合は、夏至祭の日は昼過ぎで仕事を終えたりして、家へ急ぎます。そんな夏至祭の時に食べるお菓子って何かしら?
それが、「夏至祭にはコレ」という決まったお菓子はないというのでビックリ。さすが、クリスマスにクリスマスケーキを食べないスウェーデンです(クリスマス料理というのはあるのに…)。
ただ、6月になる頃ようやく店頭に並ぶいちごほど、夏のイメージにぴったりのものはありませんよね。なので、夏至に限らずこの時期に人の集まる場やお祝い事などがあれば、いちごを使ったお菓子がいちばん多いように思います。
同様に、今が旬のルバーブも、いちごに負けないほどスウェーデンの初夏の味として大変人気があります。いずれも甘酸っぱさが夏らしい魅力なのでしょう。
さて、そんないちごを使ってこのシーズンに食べられるお菓子のうち、おそらく最も人気なのは「ピノッキオケーキ」と呼ばれるメレンゲ使いのお菓子です。パブロバやイートンメスなど、メレンゲ使いのお菓子はどれも酸味のあるフルーツとの相性が抜群ですが、このピノッキオケーキはメレンゲの下にバターケーキ部分があって、この二層を一度に焼くという焼き方もおもしろいお菓子です。
天板いっぱいのサイズで大きく焼いてから、半分にして重ねるというのが一般的な作り方。間にはさむのは、生クリームだけでもおいしい。ちなみにこの時は、知人の家でいただいたフィーカでバナナ入り。
メレンゲとバターケーキ生地を型に流し込み、一度に焼くのですが、きれいに層になっています。間には生クリームだけでなく、カスタードクリームもはさんでクリームを2種類にすると、ノルウェイの「世界一のケーキ」と呼ばれるケーキになります。
なにより、茶色い焼き菓子ばかりかと思っていたスウェーデンで初めて食べた時、「スウェーデンにもおいしいもの、あるじゃん!」と、とっても感動したのを覚えています。カシュッと音がするほどに焼き込まれたメレンゲの表面が、アンティークの磁器の欠片のようにはらはらと落ち、メレンゲとスポンジ生地がしっかり甘いぶん、はさまれた生クリームは無糖で、いくらでも食べられる絶妙なバランス。
メレンゲの表面に焼き色がつくまで焼くと、香ばしくてさらにおいしい。サクサク、さらさらと割れていく、メレンゲの甘やかなこと!
ケーキの甘さにくだものの酸味、生クリームはその両方を包み込んで、まるで喉越しのためだけに加えられているよう。とにかく、私はいっぺんでこのケーキが大好きになってしまいました。
せっかくカリッと上手に焼けたメレンゲに、生クリームを塗るのはためらわれますが、八分立てくらいのとろりとした生クリームをたっぷり塗ります。
大きく焼いて2つに切り、いわば同じものを重ねているだけのシンプルなケーキですが、都会のカフェではあまりお目にかかれないかもしれません。メレンゲ部分をカットすると崩れるからなのか、湿気に弱そうだからなのか。
その一方で、田舎のカフェでは、それこそ天板サイズ(30×40cm)でドーンと大きく焼いたものに出会う幸運な時も。スウェーデンでいちばんおいしいと思ったケーキがカフェで食べられないならばと、私も自分で作るようになったお菓子です。
好きなだけいちごをのせることができるのも、ホームベイキングの醍醐味ですよね! 酸味の強いいちごも、無糖の生クリームも、ケーキが甘いからこそ引き立て合うのです。
いちごだけでなくラズベリーなどのベリー類はもちろん、レモンカードや先述のルバーブなどを組み合わせるのも定番です。通常のレシピでは、天板で焼いて半分にカットする四角いものが一般的ですが、丸く焼くと一気に華やかさが増して特別感が出るのも好きです。
丸型で焼くと、いきなりおめかし感満点のお菓子になるピノッキオケーキ。角型の時でも、普段のフィーカよりお客様のある時や、お祝いの席などで出されることの多い、ホームメイドお菓子の中ではちょっと特別感のあるケーキです。
2段に重ねずに1段で、とにかくトッピングするだけで気軽に食べるのもアリ。こうすると、バターケーキ生地が底についているパブロバ、という感じです。
ケーキとメレンゲ部分がしっかりと甘いので、フルーツは少し酸味のあるものが合います。ベリー類は何でも合いますし、チェリー、キウイ、レモンカード、ルバーブのコンポートなどもオススメ。
メレンゲにアーモンドプードルを少し加えて、さらに香ばしくするのもおいしい。チェリーも赤繋がりで仲間入り。小さないちごは、庭に実ったワイルドストロベリーです。
夏の終わりに近づくと、いちごに代わって野生のラズベリーをはさむのですが、これがまた最高なのです(露地もののいちごは、夏至祭には間に合わない時もあるので、断然露地いちご派の私には思案のしどころです。さて、今年の夏至祭には何を作ろうかしら、、、)
ピノッキオケーキ=夏至祭に食べられているお菓子、というわけではありませんが、スウェーデンの夏の切り札的なケーキであることには間違いなさそうです。
【第2回 Swedenではポピュラーだけれど…?外国の都市名がついた謎のお菓子たち】はこちら
★マツバラさんのフィーカ通信、次回は7月にお届けする予定です
Profile
マツバラ ヒロコ
神戸出身。大阪のテキスタイル商社に10年勤めたのち、北欧への興味が募り、2003年よりスウェーデン・ダーラナ地方のテキスタイルコースで2年半学ぶ。現在はダーラナ地方在住で、アンティークや手工芸品を扱うWebショップ<happy sweden>を運営、スウェーデン人の夫、娘、柴犬と暮らす。日本帰国時には、北欧に伝わる編み物の祖先のような手芸「ノールビンドニング」のワークショップを行い、時にはワークショップと同時進行でカネールブッレを焼くことも。著書に『はじめてのノールビンドニング』(共著/グラフィック社)。
スウェーデン暮らしのinstagramは@happy_sweden
趣味で始めたお菓子作りのinstagramは @fikateria
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