第21回 モロゾフのワッフルと姪

夏井景子さんの想い出の味
2022.07.25


小さな頃、家族で買い物へ出かけるとよく行く喫茶店があった。それはモロゾフの喫茶店。プリンやチーズケーキで有名なあのモロゾフの喫茶店が、デパートの中に入っていた。

よく頼むものはワッフル。ベルギーワッフルみたいなサイズではなく、直径20cmほどの大きなワッフルだ。ワッフルの裏側にはアーモンドスライスがたっぷりついていて、それがまたとてもおいしい。クリームのように絞ったバターがのっていて、メープルシロップをかけて食べる。

小さな頃は、母がまずバターを全面に塗って食べやすく切り分けてくれて、そして自分でシロップをかけて食べていた。ドリンクはアイスティー。ワッフルとアイスティー、私のお決まりのメニュー。アイスティーはプレス式のポットにたっぷり紅茶が入っていて、そしてグラスに氷がみちみちに入って運ばれてくる。自分でぐーっとポットの取っ手を下へ押し、グラスに注ぐ。たっぷりの氷に冷やされて、アイスティーの完成。この作業がとても好きだった。

このモロゾフのワッフルが、小さな頃のおでかけの楽しみのひとつだった。新潟のデパートに入っていて、場所を何度か転々としつつも、私たちは足しげく通った。父や祖母ともよく行ったので、私の家族との思い出の場所のひとつだ。

新潟に1店舗しかないモロゾフの喫茶店だけれど、ホールには長年同じ男性の方がいて接客をしていた。家族と何度も何度も通っていたのは、私がまだ小学生の時で、父が亡くなってからは行く回数も減っていた。モロゾフの喫茶店が閉店すると聞いて、20歳を過ぎた頃に数年ぶりに家族と行ったら、そのホールの男性がまだ働いていていたのだ。なんだかとてもうれしかった。

帰る時に声をかけたかったけれど、閉店を聞きつけたお客さんでとても混んでいて忙しそうで、何も言わずに帰った。あの方は今どうされているんだろう、なんて、モロゾフのワッフルを思い出すのとセットで思い出す。

あの大きなワッフルには、なかなか出合えない。ベルギーワッフルはたまにあるけれど(ベルギーワッフルも大好きなのでよく買ってしまう)、あの大きなワッフルが食べたいのだ。
モロゾフのあのワッフルとアイスティーのセットが食べたくて、たまにモロゾフのホームページを検索して、関西にあるモロゾフの喫茶店の写真を見て、食べたいなぁと思いを馳せる。姉とも「モロゾフのワッフルが食べたいね」とぼやいている。

ある日、とあるお店のモーニングにあの大きなワッフルがあるという話を聞いて、早速姉と行ってみた。食べて2人とも感動した。あのモロゾフのワッフルにとても似ているのだ。それからは、たまに姉と一緒にそのお店に通った。

ところで、私には愛してやまない姪と甥がいる。
何度もこのエッセイで書いているけれど、私はかなりのお姉ちゃん子だったと思う。ある時、姉の妊娠中に旦那さんが出張で家を空ける日があった。ひとりでは心配ということで、私が姉の家に泊まりに行った。
姉と布団を並べて寝る前、たわいもない話をしている時に、私は少し寂しくなった。もう姉と2人でこうやって一緒に寝ることはないんだなぁ…次はもうここに赤ちゃんがいるんだ。そう思って少ししんみりした。

後日、無事に出産し、姉の里帰りと年末年始の私の帰省が重なり、そこで私は母になった姉と赤ちゃんに初めて対面した。産まれて間もない泣いてばかりの赤ちゃんに対し、見たことのない顔をする姉に、私はなんだかとても寂しくなった。

その年末年始はお店で働いていたので、休みがあまり取れずに、私は1泊だけの帰省だった。帰った日は産まれたての首もすわってない赤ちゃんに触るのもなんだかこわくて、抱っこなんてもってのほかだった。翌日のそろそろ私も帰る頃に、姉に「せっかくだし、赤ちゃん抱っこして帰りなよ〜」と曇りのない笑顔で言われ、私は「う、うん、そうだね」と、なんともそっけない返事をしながらふにゃふにゃの赤ちゃんを腕に抱えた。

その抱えた瞬間に、感じたことのない気持ちが全身を伝って、「え…!!か、かわいい…」とクラクラしたのだ。ついさっきまで、不思議な生き物だなと遠目で見ていたのに。

それからというもの、私は姪のことがかわくてかわくて仕方ない。姉の出産前にしんみりしていた自分が恥ずかしい。

姪の身長が伸びるたびに、あんなに小さかったのに…と、初めて抱っこした時のことを思い出す。姪と会う時は、当たり前だが姉も一緒にいるので、ワッフルのあるあのお店によく行く。姪もワッフルが大好きで、手紙をくれたりすると、「またワッフル一緒に食べに行こうね」とよく書いてある。お店は違えど、小さな頃大好きだったワッフルを今姪と食べられることが、私もとてもうれしい。

コロナ禍になってそのお店はモーニング営業をお休みしていて、ここ2年はあのワッフルを食べられていない。「あのお店のワッフル食べたいねぇ」と、今は姪とぼやいている。

2020年に出した本に書かれている“ワッフルを食べる姪との約束”のポエムは、自分の小さな頃からの思い出の味で繋がっている。

 

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写真提供:Morozoff

Profile

夏井景子

KEIKO NATSUI

1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。 
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Instagram:natsuikeiko

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