第22回 料理教室を始めるきっかけになった「キムチ教室」と、カフェ時代の先輩とのケンカ
私が料理教室を始めたのは、「キムチの作り方を教えてほしい」と言われたことがきっかけだった。キムチは小さい頃から好きでよく食べていて、いつか自分で作ってみたいな…と思っていたもののひとつ。
でも、いざ本で作り方をみても、アミの塩辛…?韓国唐辛子…?と、その頃の自分にはなじみのない材料や言葉が出てきて、レシピを読んでも全く作れる気がせず、キムチのレシピを眺めては作ってみたいなぁ…とぼんやり思っていた。ずっとキムチを作ることが憧れのまま、大人になってしまった。
そんなキムチ作りへの憧れを持ったまま、カフェで店長をしていた頃。休みの日に仲の良かった先輩と、お互い好きな料理家さんがイベントスペースで1日食堂をすると聞いて、「一緒に行きませんか?」と私から誘って約束をした。
楽しみだな〜と寝る前にTwitterを見ていたその時、ふと『キムチ教室』という文字が目についた。以前から知っていた作家さんで、その作家さんの知り合いの方がキムチ教室を1日限定で開くという。そして、その方のキムチはとってもおいしいと書いてあった。
キムチ教室!と思わず反応したものの、開催日はもう目前で、先輩とランチの約束をしていた日だった。少し残念。まぁ、先輩と約束した1日食堂も楽しみだし、しかたない…。でもやっぱり、キムチ教室行きたかったなぁ…などと思いながら眠りについた。
そして、先輩との約束の日の数日前。まさかのまさか、私と先輩はケンカをした。ケンカというのは大げさかもしれないけれど、仕事の仕方でぶつかってしまったのだ。
その日はほとんど話さず、和解しないまま帰宅してしまった。私は気持ちがモヤモヤし、「先輩とのランチはこのままだとなくなるだろうし。もういい、私はキムチ教室に行こう」と、予約のメールを送った。大人げなく、キムチ教室をひとりで予約した。
モヤモヤした気持ちは時間が経つにつれ、反省へと変わっていく。そして、先輩とランチの約束をしていたのに、キムチ教室を勝手に予約してしまったことへの罪悪感…。
休み明けに先輩と顔を合わせ、「帰りに少し話しませんか?」とどちらからともなく言い、お店を閉めた後、お茶とケーキの端っこを食べながら話をした。
お互い謝り、あの時はこう思ってこう言ったとか、前にこう言ってたからこうしたんだとか。話をするうちに、すれ違いが重なっていたことがわかった。一緒に仕事をする上で、落ち着いた状態で互いの不満や気持ちを伝え合うことは本当に大切だと学んだ。
そしてわだかまりが解けた後、私は先輩に言わなければいけないことがある。そう、キムチ教室の予約を入れてしまったこと(このことが何より大人げない行動…)。
「あの…もうひとつ謝らなきゃいけない事があって…。ランチの約束の日、キムチ教室を見つけてしまい、予約してしまいました。本当にすみません!!」と正直に話すと、先輩は笑いながら「そういうところ、なっちゃんぽいわ〜。ランチはいつでも行けるし、楽しんできて」と、快く承諾してくれた。
後日、私は念願の人生初のキムチ作りを経験した。そこで習ったレシピを元に、自分で何度も何度も作ってみた。そしていろんなアレンジを重ねて、今のレシピが完成した。
当時働いていたカフェでキムチを作ってビビンバに添えたら、これがとても好評で、お客さんから「作り方を教えてほしい」と言われ、カフェの閉店後にキムチ教室を開催することになった。
カフェで店長をしていたので、なんとなく人にやり方を伝えるのは慣れていたのがよかったのかもしれない。キムチ教室は大反響で、わいわいみんなで手を動かしながら楽しい時間を過ごした。最後に参加してくれた方々とみんなで「ハイ、キムチ!」とのかけ声で写真まで撮った。みんなキムチハイになっていたのが伝わるエピソードだ。
そこでの時間が、今の私の料理教室のきっかけだった。あの時、先輩との約束をキャンセルしてまで参加したキムチ教室。あの時、やさしく「楽しんできてね」と言ってくれた先輩には本当に感謝している。そしてキムチ作りを教えてくれた私のキムチの師匠は、「自分でキムチ教室を開きたい」と言った時、快く承諾してくれた。
いろいろな偶然が重なって、キムチ教室を開いて、そこから料理教室を主宰している。私のキムチには、たくさんの人との思い出が詰まっている。
【夏井景子さんの想い出の味㉑〜モロゾフのワッフルと姪】はこちら
←その他の「夏井景子さんの想い出の味」の記事はこちらへ
Profile
夏井景子
1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。
http://natsuikeiko.com
Instagram:natsuikeiko
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。