【大人のおしゃれアーカイブ】光野 桃さん Vol.3
女性ファッション誌の編集者を経てエッセイストに。おしゃれの第一線を駆け抜けてこられたのに「私は、ちっともおしゃれなんかじゃない。ただ、おしゃれに焦がれ続けてきただけ」と光野さんは語ります。
「私は私のままでいい」と自分を認められたのは、還暦を迎えたころでした。今年62歳になり、バッサリと髪を切った光野さんに、ご自身のおしゃれと人生についてうかがいました。
Vol.2から続きます
人生のいくつもの曲がり角を通り過ぎてきた光野さん。2年前に還暦を迎えると、自分でも思ってもいなかった変化が訪れたのだといいます。
「還暦を迎えた朝、私はすごく自由だ! と思いました。人からどう見られるか、という呪縛から解放され、スコンと何かが抜けたんです」
そして62歳になった今年、髪の毛をバッサリ切り、染めることをやめようと決意したそう。
「1歳でも若く見られたい、という気持ちと完全に決別しないと、前に進めないと思ったんです」
ショートカットにしてみると……。
「生まれて初めて、自分の外見と内側がピタッと一致するのを実感しました。『この自分が、過不足なくプラスマイナスゼロで、すべてです』と思えるようになりましたね」
人は歳を重ねることを怖いと思うもの。でも光野さんはこう語ります。
「歳をとることは、美貌を失うことじゃない、とはっきりと言いたい。シワやシミは増えるけれど、自分が今まで得たものが、内面にどれほど蓄積されているかに目を向ければ、それを生かして自分の外観をつくることができるはず。容貌が衰えると思ってしまうのは、若さしか認めない日本の社会のせいかもしれません」
子育てを終えたり、仕事の第一線から退くと、社会に必要とされなくなるのでは? という不安もあります。
「手に入れたものに固執しないほうがいいと思いますね。また違うものを手に入れればいいだけ。社会的に必要とされなくなれば、ひとり遊び的な発想を持てばいい。60年も生きるとね、ネガティブなものがだんだん消えていくんです。だからもっともっとラクになるはずですよ。どうぞ楽しみにしていて」
とにこやかに教えてくれました。
晴れやかな光野さんの姿を見ていると、歳を重ねた先にどんな風景が見えるのかと楽しみになってきます。
40代から50代。そして60代へ。その時々に悩み、落ち込み……。華やかさの裏で苦んだ日々の話をうかがうと、胸が詰まるようです。でも、苦しんだからこそ、すべてから解き放たれて、「ありのままでいい」と素の自分になった爽快感が格別になるのかもしれません。還暦を迎えた光野さんの輝きは、今まで歩いてこられた年月に磨かれた証しのようにも思えます。
photo:大森忠明 text:一田憲子
Profile
光野 桃
エッセイスト。小池一子氏に師事した後、女性誌編集者を経て、イタリア・ミラノに在住。帰国後、文筆活動を始める。1994年のデビュー作『おしゃれの視線』(婦人画報社刊)がベストセラーに。以後、ファッション、体、自然を通して女性が本来の自分を取り戻すための人生哲学を描く。主な著書に『あなたは欠けた月ではない』(文化出版局)、『自由を着る』『おしゃれの幸福論』(KADOKAWA)など。
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