江戸っこが愛した“きんつば” 「榮太樓總本鋪」
●江戸庶民に甘い夢を届けて二百年
松の内を終えて、新年気分は抜けたころでしょうか。今年も「大人の江戸あるき」をよろしくお願いいたします。そして気持ち新たに、“江戸なおやつ”を取り上げていきます。江戸のころから親しまれてきた和菓子や甘味などをご紹介していきますので、おいしい時間をおつきあいください。
さて今年で二百年を迎える江戸の菓子屋、日本橋の榮太樓總本鋪。文政元(1818)年、埼玉は飯能から出てきた初代が江戸で菓子店を開業します。くだること安政四(1857)年、三代目の細田安兵衛は日本橋の西河岸に菓子店を構え、みずからの幼名にちなんで屋号を「榮太樓」としました。
アイデアにあふれた三代目は、庶民のためにと安価なささげ豆を蜜煮した「甘名納糖(あまななっとう)」、南蛮の砂糖菓子アルフェニンに工夫を凝らした「梅ぼ志飴(うめぼしあめ)」など、今でも人気の名物菓子を生みだしていきます。
三代目が店を開いた日本橋の地には、榮太樓總本鋪の本店があります。
「梅ぼ志飴」を皮切りに、十一種類ものデザイン缶入り飴がラインナップ。
榮太樓の名物菓子と言えば忘れちゃいけないのが、「きんつば」。刀の鍔(つば)の丸みに似ていて、焼き上がりが黄金色に見えたことで、名がついた「きんつば」。三代目が焼く餡がたっぷり入った“気前のいい”きんつばは、魚河岸で働くひとたちをはじめ江戸庶民のおやつとして愛されてきました。
●熟練職人がつくる、なめらか餡と香ばしい皮のきんつば
今では、熟練の和菓子職人が「手包みきんつば」を手掛けています。「小麦の皮でつぶし餡を包むきんつばは、榮太樓ならではのお菓子です。三日間かけてつくる餡に負担をかけないように、できるだけ少ない手数で包みます。餡とともに皮の風味を感じていただきたいから包み終わりを心持ちあつめに」。
こう話してくれるのは、四十二年間榮太樓で菓子を作り続ける古参職人の青木誠治さん。
なめらかなつぶし餡をまるめリズムよく包む青木さん。業界団体認定の「選 和菓子職」優秀菓子職にも選ばれている。
銅板に塗ったゴマ油の香りが広がると、包餡したきんつばを軽くつぶしながら並べていきます。「薄い皮が破れないよう丁寧に焼いていきます。皮の風味を楽しんでいただきたいから、包み終わりをよく焼いてパリッとさせます。最後に型抜きをしてできあがり」。餡作りから焼きまで、手間を惜しまずに仕上げていきます。
ひとつひとつの焼き状態、火加減を細かく調整しながら、おいしいきんつばへと焼き上げる。
「いかにおいしくするか、それだけを考えてつくっています。江戸庶民から愛されてきた歴史ある榮太樓のきんつば。そんな銘菓をつくれるよろこびを大事にしています」
「少し温かいのがおいしい」と青木さん。自宅で食べるときは、レンジなどでちょっぴり加熱をするのがおすすめ。
●味と心意気を受け継ぐ、榮太樓の菓子
本店にあるカフェ「雪月花」では、手包みきんつばをお抹茶といただくことができます。香ばしい皮とほどよい甘さのつぶし餡の手包みきんつばは、素朴ながらも確かな味わい。江戸時代から「榮太樓の菓子は気前がいい」と言われたように、食べでのある大きさはおやつにぴったりです。
手包みきんつばは、本店と一部の百貨店限定品。カフェ「雪月花」では、お抹茶とセットでいただける。
江戸っこが愛したきんつば。どれだけ時代が変わっても、その味と心意気が受け継がれています。
Profile
森有貴子
編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。
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