江戸生まれ発酵菓子“くず餅” 「船橋屋」

大人の江戸あるき
2019.01.16

●亀戸天神境内の茶店名物からはじまった


賑わうお寺や神社の門前には、昔ながらの茶店があるもの。一月二十四日、二十五日のうそ替え神事(幸運を招く鳥であるうそのお守りを新たに替えることで、それまでの悪いことがうそになる)で賑わいをみせる亀戸天神。その境内に文化二(1805)年、船橋で豆腐屋を営んでいた勘助が一軒の茶店を開きます。

 

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船橋屋の看板商品であるくず餅(630円)。きな粉と黒蜜をたっぷりからめていただく。ぷるぷるした弾力と柔らかなのどごしがたまらない。

 

茶店の名物菓子を、と考えたのが船橋名産の小麦粉を使った蒸し菓子でした。当時、千葉の小麦農家などではおやつにしていたこともあり、勘助にはなじみがあったのでしょう。葛粉を使わないことから「久寿餅」と名をつけて、出身地にちなみ「船橋屋」とした店は大いに繁盛します。亀戸天神をお詣りする多くのひとに愛されたことから、関東では船橋屋スタイルのくず餅が定番になったとか。

 

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創業の地とほぼ変わらぬ地で商いを続ける船橋屋亀戸天神前本店。芥川龍之介、永井荷風、吉川英治などの甘党文豪が足を運んだ。店には吉川英治が揮毫した大看板が飾られている。

 

●じっくりと発酵させて生み出す、くず餅の弾力と粘り


東京近郊ではなじみ深い船橋屋のくず餅ですが、和菓子では珍しい発酵菓子です。材料である小麦澱粉を岐阜工場にあるヒノキの発酵槽で発酵。それも十五カ月という長期発酵!というから驚きました。「代々、発酵槽に住み着いた乳酸菌でじっくりと自然発酵するからこそ、モチモチっとした弾力感や粘りある船橋屋のくず餅になります」と、船橋屋くず餅の要である工場長 天野充雄さん。

 

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冬でも熱気がこもる工場。小麦澱粉を練る水の量や蒸す時間は、季節や気温によって細かく変えている。

 

発酵させた材が届くとまず香りと味を確かめます。濃厚なヨーグルトのような香りや爽やかな酸味がいい発酵の証だとか。「十分に発酵した材料を熱湯で練りあげて、セイロに流して蒸します。蒸し上がったものは、“あたり”といって職人が指先で弾力や粘りを確かめます」。
その後、セイロからはがして、独特な切れ目をほどこし、手際よく箱詰めに。職人さんの一糸乱れぬ連携作業に熟練の技を実感します。

 

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100℃近い温度のくず餅の良し悪しを指先で瞬時に判断する天野さん。

 

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蜜が絡みやすいように切れ目を入れたくず餅を容量にあわせて手早く包む。


●潔さと進取の気質で江戸を受け継ぐ老舗


くず餅はもちろんですが、黒蜜やきな粉にも船橋屋ならではのこだわりがあります。「沖縄産の黒糖や数種類の砂糖をつかい、黒糖の風味とくず餅にからむ粘り気ある黒蜜に仕上げます。こだわりの大豆をつかったきな粉は、くず餅にあうようにやや粗めに挽いてもらっています」と天野さん。

 

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本店のショーケースには容量にあわせたくず餅がずらり。

 

十五カ月も発酵させる看板菓子ですが、消費期限はたったの二日。添加剤や保存料を一切使わず、真空パック商品も作りません。だからお店は関東近郊のみという潔さ。また長年研究を重ねて、くず餅の原料から乳酸菌を取り出すことに成功。くず餅由来の発酵力を生かした商品づくりもすすめているそう。潔さと進取の気質、江戸の老舗にして先端をゆく、船橋屋です。

 

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本店の喫茶では、自慢の餡をつかった品書きがならぶ。手作り白玉とコクのあるつぶ餡のお汁粉(800円)は、今の季節にぴったり。

 

*商品すべて税込、2019年1月現在のものです。

 

 

船橋屋亀戸天神前本店
東京都江東区亀戸3-2-14

☏03-3681-2784
営業時間 9:00~18:00(喫茶は~17:00)
休日 無休
http://www.funabashiya.co.jp/

Profile

森有貴子

Yukiko Mori

編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。

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