尾道編vol.3 “映画の街”を復活させた「シネマ尾道」

地元のおしゃれさんが 案内する 小さな旅
2019.10.19

地方在住のおしゃれさんに、地元のとっておきの場所を案内していただく人気連載「地元のおしゃれさんが案内する小さな旅」。今月は、レトロな街並みや景色が魅力的で、観光地として人気が高い広島県・尾道を特集します。最近は移住者も増え、おしゃれなお店やカフェがどんどん増えているそう。そんな今話題の尾道を案内してくれるのは、天然染色で染めた帆布のバッグや小物の製作を行う「立花テキスタイル研究所」の新里カオリさん。ご自身も10年前に移住してきたからこそわかる、尾道の奥深い魅力を教えていただきました。

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text:新里カオリ


みなさん、こんにちは。
今回は尾道駅前にある単館映画館、「シネマ尾道」をご紹介します。

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尾道といえば“映画の街”と言ったイメージをお持ちの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。そう、小津安二郎監督の「東京物語」や、大林宣彦監督の「転校生」など、尾道を舞台とした映像作品は実に150本以上あると言われています。

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古い小さな家々が立ち並ぶ山手地区、街のすぐ近くにまで迫る海は、街そのものが映画のセットのようだな、と私も初めて尾道を訪れた時感じました。もともと旅館の演劇場だったこの場所を1948年に松竹が借り上げて改装し、尾道松竹が開館。1960〜70年代、当時の尾道市街地は小さな街にも関わらず合計10館の映画館が立ち並び、どこも毎日立ち見が出るほどの賑わいだったそうです。

ところが1970年代に入る頃、家庭へテレビが普及したことやレジャー施設の増加など、娯楽の多様化により映画産業は全国的に衰退。尾道松竹も例に漏れることなく2001年に廃業することになりました。“映画の街”から映画館が消えることに……。

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そこに一人の若い女性が旗を揚げました。尾道市生まれの河本清順さんです。三原市の高校を卒業後、京都の専門学校に通い、古い邦画から話題のものまで、とにかく休みの度に映画館に足しげく通いつめて観ていたのだとか。当時20代だった河本さんは尾道最後の映画館の閉館に落胆し、尾道市民としてこの映画館を維持できなかった後ろめたさを感じていたそうです。

「一度は消えてしまったけど、今ならまだ間に合う。建物が壊されないうちに、この映画館を復活させてみせる!」と奮起した河本さんは、日本中のミニシアターに足を運び、経営者や支配人にヒアリングを重ねました。運営形態も予算も多様な映画館を調査する中で、銀行を改装して誕生した埼玉県にある深谷シネマに注目。人口規模が尾道市と同じくらいの深谷市で、1スクリーンという小さな規模、資本金はわずか1,000万円で再建された映画館であり、ここをモデルとして計画を立て始めたそうです。

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その後2004年に2人の仲間と共に任意団体「尾道に映画館をつくる会」を発足。公共のホールなどで様々な映画の上映会を行い、その活動はメディアなどにも取り上げられ始めました。勢いをつけて2006年にはNPO法人化、映画館の開館を目標に100名を超える会員、30人以上のボランティアスタッフも集まり、2008年をゴールとした募金活動では最終的に目標額を大幅に超える2,700万円の寄付を集めました。

「映画の街、尾道にもう一度映画館を」
この一人の女性の呼びかけが、次々と波を起こし尾道市民の心を揺さぶったのです。

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映画館の改装費を考えると、映写機などの機材に使える費用は限りがありました。閉館した映画館から中古で安く譲ってもらい、紆余曲折ありながらも2008年10月18日に強行で開館。なぜ「強行」なのかと言いますと、それは普通の人なら実現不可能な事を河本さんは成し遂げたからです。

まず、目標金額に達する前に工事の契約にサインしたことから始まり、古い映画館だったために予期していなかったトラブルが様々あったのですが、「シネマ尾道、10月18日開館!」と先にメディアに発表。焦る行政の方に「もう言っちゃったんで、なんとかしてください! 広島県の名誉にかけて!」と半ば脅迫!? もうみんな揃って後戻りできない状態になり、あれよあれよと大勢の人を巻き込みながら、ハイ! スタート! これ自体が映画みたいなお話です。

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そして今や年間150本の映画を上映。映画監督や俳優を招待したトークショーや、子供向けの映画製作や上映に関するワークショップなども精力的に行なっています。

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『井浦新特集in尾道』映画『嵐電』主演・井浦新さん(左)と鈴木卓爾監督(右)。(2019年8月31日)

現在では映画関係者にも話題の「シネマ尾道」。俳優の方々もここでの舞台挨拶は単に宣伝だけにとどまらず、観客の皆さんとの対話が楽しめるそうで、他の映画館にはない盛り上がりがあるんだとか。

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河本さんの「清順」というお名前も、映画好きのお祖父さんが映画監督である「鈴木清順」にちなんで命名したそうで、きっとこうなる運命だったのですね。そんな河本さんが運営する「シネマ尾道」では、特典もたくさんあります。

通常料金が一般1,800円のところ、幼児から大学生までは1,000円。毎月1日のシネマデーは誰でも1,200円。女性は水曜日、男性は月曜日だと1,200円。障害者、障害者付添人、外国人国籍の方は1,000円。他にも会員制度などもあり、全ての人が関われる特典です。舞台挨拶も頻繁に行われていますので、是非チェックしてみてくださいね。

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街歩きもいいけど、休憩をかねてゆっくり映画鑑賞、も粋な尾道の楽しみ方ですよ。

 

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シネマ尾道

MAP:
広島県尾道市東御所町6-2
TEL:0848-24-8222
http://cinemaonomichi.com/

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