手渡すおへそ ― 小曽根 真さん、神野三鈴さん Vol.2

暮らしのおへそ
2021.01.12

※この記事は2020年8月30日に発売された『暮らしのおへそ Vol.30』に掲載されたものです。

←Vol.1はこちらから

体にいいものを食べ、自然に感謝して
猫たちとリラックスすれば、
己のことでいっぱいになりがちな心を離れ
今ここにある幸せを感じることができる。


お互いに仕事で忙しい毎日のなかで、おーちゃん、めいちゃん、ゆっくりちゃんの3匹の猫たちと過ごすひとときが、何よりのくつろぎ。リビング横のライブラリールームで。

 

自分は自分がもらったギフトを
ちゃんと生かせているの? そう考えて
仕事に向き合うことにしたんです。 ― 三鈴


順風満帆な人生かと思いきや、アメリカから帰国後はずいぶん苦しい時期も過ごされたそうです。

「全然楽しくなかったんです。日本人はまじめだから、たとえばちょっとテンポが速くなったら、『おまえ、さっき走ったよね』って言われる。僕は『走ったんじゃない、音楽があそこへ行きたがったんだ!』と言ってケンカになる。気に入らない演奏を演った日は帰ってきてお酒を飲んで荒れて……」

そんなとき知り合ったのが三鈴さんです。阪神淡路大震災のチャリティコンサートを企画した三鈴さんが、小曽根さんに出演を依頼したのがきっかけ。

「初めて真の音楽を聴いたとき、この人、どうして自分を隠して弾いているんだろう? と思って。『一緒にアメリカに行こう! 行かなくちゃあなたはダメになる』と言いました」

26歳で舞台デビューした三鈴さんは、井上ひさしさんなどそうそうたる作家や演出家に信頼される実力派俳優。小曽根さんの音楽を聴いて、どうして「何かを隠している」と見抜くことができたのでしょう? 

「母に『いつも本物だけを見なさい』と言われて育ったんです。偽物と本物を並べて比べるのではなく、あなたの心が震えたら、それが本物だよと教えてくれました。だから、真の音を聴いたとき、私なりに何か信じるものがあったのでしょう」

こうしてニューヨークに渡ると、小曽根さんはたちまち活躍の場を広げ、8年間を過ごして帰国。すると今度は三鈴さんが、自分の仕事と向き合う決心をします。

「どんなに頑張っても彼の才能は彼のもの。その成功を自分の手柄のように思う自分がイヤだったんです。じゃあ、私は自分がもらったギフトをちゃんと生かせているだろうか? と考えて、しばらくの間、私が私のために生きる時間が欲しいと伝えたんです」

小曽根さんはこう語ります。

「パートナーとして、初めてこの人に本当に欲しいものを与えられる機会が今なんじゃないかと思ったんですよね。もし、彼女が本当にその『時間』が必要だと考えるなら、喜んで差し出そうと思ったんです」

そしてふたりは少し距離を置いてそれぞれの道を進み、やっと今、再び寄り添ったというわけです。

「今も模索中ですけれど、確かなのは、自分の個が成立して、そのふたりがタッグを組むとすごく強いということ。まずは個で戦ったからこそ、小さい頃から夢見ていた、本当に愛し合えるふたりになれたんだと思います。そしていちばん良かったことは、このコロナの時代に誰かの役に立てたこと。やりたかったことが、やっとふたりでやれた気がします」と三鈴さん。

そんなふたりが暮らすのは、山の上の一軒家。三鈴さんは食にもこだわりが強く、酵素玄米を炊いたり、野菜中心の料理を作ったり。

「体が元気になると、性格も変わるんです。僕は以前、焼き肉ばかり食べていて、本当に自分のことしか考えない男だった(笑)。でも、三鈴に出会って、食生活を変えたら、世の中には目に見えないことが確かにあって、感謝することが大事なんだと、思考の循環ルートが自然に変わっていったんです」と小曽根さん。

「きっと私たちは、食べていけなくても音楽家と役者をやっていると思うんです。だってそれをやらなくちゃ死んじゃうから。今回のライブ配信でいちばん感動したのは、同じ周波数をもった方が集まってくださったこと。仲間を見つけたような気持ちになりました。そしてコロナ後は、新しい生き方が始まると確信できたんです」と三鈴さん。

あんなにも苦しんで、傷ついて、やっと手にした宝物を、小曽根さんも三鈴さんも「自分のために使う気はさらさらない」と語ります。ふたりがリビングルームから届けてくれたのは、みんなが互いに自分がもっているものを手渡し合えば、新しい循環が始まるという真実だった気がします。

 

見る ― 神野三鈴さんのおへそ

母からの教えは、本物を知りたければ
偽物と2つ並べて違いを見極めるのでなく
たったひとつのものと真剣に向き合うということ。


三鈴さんは有機野菜を使って保存食作りも。ピアノを置いたリビングから、ステップフロアになった上にキッチン&ダイニングスペースがある。

 


ソファやダウンライト、キャンドルなどのインテリアは、すべて三鈴さんチョイスなのだそう。

 

体を整える


「パラダイス酵母」にりんごジュースを足して作り続けている発酵ジュース。

 


専用の炊飯器2台で、酵素玄米を作り置き。これだけで完全食と言われているので、あとは納豆とみそ汁だけで充分。野菜中心のおかずをプラスして日々の食事を。

 

『暮らしのおへそ Vol.30』より
photo:加藤新作 text:一田憲子


→その他の「暮らしのおへそ」の記事はこちら

Profile

小曽根 真

Makoto Ozone

1961年兵庫県生まれ。バークリー音楽大学を首席で卒業後、全世界デビュー。世界的なトップ・ミュージシャンとツアーを催行するほか、ソロ、ビッグバンド、オーケストラとの共演、作曲などジャンルを超えて世界のひのき舞台で躍進中。平成30年春、紫綬褒章受章。

 

神野三鈴

Misuzu Kanno

1966年神奈川県生まれ。数々の舞台で活躍し、近年は映画やドラマにも出演。2020年、「マクベス」「組曲虐殺」の演技で第27回読売演劇大賞最優秀女優賞受賞。ベルリン国際映画祭で史上初の2冠を受賞した「37セカンズ」がNetflixで配信中。

Check it out
さらに読みたい

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

ページトップ