2023年最初の「今日のひとしな」は、北海道・洞爺湖町より「toita」が登場です!

今日のひとしな
2022.12.31

今年も残すところ、あと半日となりました。みなさんにとって、2022年はどんな一年でしたでしょうか? 365日毎朝7時にお届けしている、連載「今日のひとしな」。充実した毎日を送っている時も、ちょっとお疲れ気味の時も、訪れてくれた皆さんがほっとひと息つける場所であるよう、来年も魅力的なお店のみなさんと共にお届けしたいと思っています。

さて、2023年最初の「今日のひとしな」にご登場いただくのは……?

真冬の平均最低気温は-10度。しんしんと降る雪に町全体が覆われてしまう日もあるという、厳しい寒さの北海道・洞爺湖町。その町のシンボルでもある洞爺湖から、歩いて100mほどのところにあるお店です。


その名は、暮らしにまつわる小さな商店「toita(トイタ)」。


今は雪景色が広がっていますが、心地よい季節の時には、お店の前にあるベンチでお客さんや地元のおじいちゃん・おばあちゃんが休憩していたり、ストレッチをしていたり。テーブルスペースでは、「toitaマルシェ」を開催することもあり、生産者さんとお客さんが会話をしながら買い物を楽しむ光景が広がります。

それでは早速、お邪魔させていただくと……

15坪ほどのL字型の店内には、オーナーの高野知子さんが全国各地を旅しながらセレクトした調味料や食品をはじめ、ご近所の農家から仕入れた野菜、地元生産の加工品や珈琲、さらには書籍や生活雑貨までがズラリ。

お隣には、原田知世さん主演の映画『しあわせのパン』にも登場し、地元の人はもちろんのこと、全国からもリピーターの訪問がやまないという人気パン屋「ラムヤート」が。実は、生まれも育ちも札幌の高野さんが洞爺に来るきっかけを作ってくれたのは、この「ラムヤート」のオーナー・今野さん。

お客さんとオーナーとしてかねてから交流があったお二人でしたが、「地元のおいしい野菜は沢山あるのに、調味料が手に入りにくいのが悩み。食材店を作りたいから、一緒にやらないか」という今野さんからの誘いに、時を経て、高野さんがうなずいたところからのスタートしたのが「toita」でした。

「以前は、札幌で10年間アパレルの販売員をしていました。忙しいながらも大好きな洋服に囲まれた、充実した毎日。念願だった東京勤務も決まっていたんです。ただ、そんな最中に起きたのが……東日本大震災でした」と高野さん。

直接被害を受けることはなかったものの、痛感したのは、「便利な生活のもろさ」。公共交通機関や流通がストップしてしまうと何も機能せず、みんなパニック状態に。そんな現状を目の当たりにした時、高野さんは自分の無力さに呆然とし、「都会で何不自由なく生活してきた、それまでの価値観が大きく揺らいだような気がした」と言います。

 「流行を追うだけではなく、もっと大切にしなければならないことがあるんじゃないか? と。常に先を見据えて、忙しく働く毎日にどこか疲れてしまっていた自分もいたんでしょうね。会社がやっと落ち着いてきて、再び東京勤務を打診された時、『はい』と言うことができなくなってしまって……。それまで洞爺に通ううちに親しくなっていった『ラムヤート』の方たちは、自給自足まではいかなくとも、薪割りから野菜の生産、家の改修まで、自分たちの手で日々の暮らしを紡いでいました。自分たちが心地よく働くための体制もちゃんと整えています。すごく大変だと思うのですが、彼らからは‟生きる力”と“生きていく自信”をひしひしと感じました。そんな姿を見るにつれ、私も自分の暮らしと仕事を足元から見つめ直したいなと思うようになったんです」


「ラムヤート」。高野さんの洞爺生活はここから始まりました。

まずは、洞爺の暮らしに慣れるところから。「ラムヤート」のみなさんと生活し、仕事を手伝いながら、古民家を改修した「toita」の準備を。そうして、2015年の秋、「toita」が始まりました。洞爺に観光で訪れる人から、地元や北海道の各地域の人まで。多くの人が訪れます。

「旅行で立ち寄って下さる方には、洞爺や北海道にちなんだものが喜ばれますね。『重くないのかな?』と心配になるほど、調味料やお野菜をたんまり買われていく方も。この前は、高知のおせんべい屋さんが『北海道の小麦粉を試したい』と持ち帰ったあと、『今までで一番のおせんべいになりました!』と商品を送って下さり、さらに今後はその小麦粉で生産することが決まったと聞きました。地元のお客さんが、全国各地から集めた“toitaのひとしな”を『この前の美味しかったよ~』とリピートしに来てくれるのも嬉しくて」

高野さんが商品をセレクトする時に、ずっと大切にしていることがあります。それは、「自分の言葉で‟生産者さんの想い”をきちんと伝えられるものかどうか」ということ。「味のよさはもちろんですが、人柄や生産するうえでのこだわりに魅かれることも多いので。応援したいという気持ちが大きいです」

「人の顔が浮かぶ食卓って、なんて豊かなんだろうと思うんです。生産者さんから直接買うことは難しくても、その商品のストーリーをお客さんに届けたい。大切に作られたものをこれからも守っていきたいし、家で食卓を囲む時に『これって、こんな方法で作られているんだって』など、ちょっとしたことでいいので、話題になってもらえると嬉しいな、と。『toita』のロゴも家をモチーフにしているのですが、“ひとつ屋根の下、幸せな食卓を”という意味も込めているんです」


窓から洞爺湖を眺めて。「真っ赤な夕焼けなや虹など、ハッとするような景色が広がっていることも。自然の移り変わりを特等席で見ることができます」

「ここに来るといつもワクワクする」と、思ってもらえるよう、定期的にイベントも開催しています。「旅で出会った人、人と人との輪がつながった人。友人が友人を呼んでいくような形で、全国から展覧会やワークショップをしに来ていただいています。ここは“冬ごもり”をする人も多い土地柄なので、そんな時でも『えいや!』と来てもらって、少しでも普段の暮らしに彩りを添えてもらえたら。私自身が常に色んなことにチャレンジすることで、お店がもっと活気づくといいなと思っています」

オープン当初は、この辺りにお店はポツポツとあるくらいだったと言いますが、「ここ数年、私のように洞爺という場所に魅力を感じて移住してきた方も多く、薬膳をベースにした調合茶のお店『Cokyuu(コキュウ)』や食堂『TSUDOU(ツドウ)』などなど、新しいお店も沢山できました。『〇〇に行くなら次はあそこに行って、その後は△△へ……』と、みんなで他のお店を紹介し合っているので、観光で来られた方に『みなさん、本当に仲がいいんですね』と驚かれるんですよ」と笑います。

最近では、そんな店主仲間たちとともに、洞爺の魅力をぎゅっとつめこんだweb上の商店「FROM TOYA」もスタート。「新型コロナウィルスで外出もままならなくなったころ、以前洞爺を訪れて下さった方にも、洞爺に興味を持ってくださっている方にもこの土地の空気や美味しいものや嬉しいもの・ことをお届けできるように……と皆で立ち上げました。全国からのお客さんとの交流も楽しいですし、そんなやり取りが私たちにとってもどんなに励みになっているか! なかなか洞爺まで足を運べない方にも、ぜひ覗いてもらえると嬉しいです」


店名の「toita」とは、アイヌ語で“土地を耕す”という意味。「日々、私がお店を‟耕す“ことが、ここ、洞爺の新しい文化につながるという思いも込めて」

明日からの連載では、洞爺の美しい風景もご紹介下さる予定ですので、ぜひお楽しみに! それではみなさん、どうぞよいお年をお迎え下さい。

 

文/門谷 優

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toita/トイタ(北海道)

住所:北海道虻田郡洞爺湖町洞爺町85-2
営業時間:10:00~16:00
定休日:日、月、火曜日
オンラインストア:https://fromtoya.shop-pro.jp/
instagram:@toita.toya 

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