精進料理「iori」vol.1「肉や魚を避けた生活は、面白くて心地いい」

大人暮らし これからの食卓
2019.09.03

子どもが独立して、夫婦ふたりの生活に。仕事や暮らしのスタイルを今の年齢に合った形に変えようと思いつく……そんな人生の節目は、ふとした瞬間に訪れます。これからの日々は「のんびり自分流に」と、暮らしや考え方を切り替える方も多いようです。特に個性が際立つのが、日々の食卓。体調や食の好みが変わってくる年代に差しかかることもあり、心も体も健やかに過ごせる“今の自分にちょうどいい食事”が、それぞれ定まってくるのかもしれません。
そこで「暮らしとおしゃれの編集室」では、食まわりの仕事をする素敵な先輩方に、年を重ねた今、日々の食卓にどんな変化があったかをお聞きしてみました。連載第5回は、精進料理「iori」の園部曉美さんと中園五月さん姉妹が登場。新刊『これからの暮らしと食卓』でも詳しくご紹介していますので、ぜひあわせてご覧くださいね。

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味噌ラーメンとキムチ、デザートにはレアチーズケーキ。「iori」の主宰する「精進料理の会」のある日の献立は、こんなふう。ちょっと意外です。精進料理と聞くと、野菜の煮物やおひたしなど、油っけの少ない、しみじみとした料理を想像していました。

「それは、お寺で食べられているタイプのものですね。私たちは日常で無理なく続けられる精進料理を心がけています。だから、みなさんが普通に食べている家庭料理と同じであることが大事。満足感のあるものでなくては、家族も喜んで食べてくれないし、生徒さんたちの献立作りの助けにもならないですからね」

その言葉の通り、ラーメンとキムチはパンチのあるこっくりとした味つけ。普通の食卓の延長線上にある味です。

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園部曉美さんと中園五月さん。「iori」は精進料理を伝える60代の姉妹ふたりのユニット。月に10回ほど、精進料理を作って食べる会を開いています。始まりは10年以上前。〝精進生活〞に入って10年目のことでした。そもそものきっかけは、妹の五月さん。

「45歳で子育てがほぼ終わり、人生に迷っていた時期でした。仕事を持ってはいたけれど、一生のものではないなと感じていたんですね。それで、これから私はどうやって年を重ねていくんだろうって、不安になっちゃって……」

そんな時に、精進料理を教えている知人のことを思い出し、コンタクトを取りました。

「何百年も前から修行僧の心身を支えてきた健康的な料理で、肉や魚を避けた菜食だと説明を受けました。そして、最後は『私たちは〝神様〞につくってもらったんですよ。その〝神様〞が精進しなさいといっています』という言葉で締めくくられました。その言葉が妙に残ってね。それまで〝神様〞みたいな存在がいるなんて思ったこともなかったですけれど、いるとしたら素敵かもしれないって」

そこから、その知人の元へ通い、精進料理生活をスタートさせました。そして、姉の曉美さんに電話をします。

「私、精進料理で暮らすことにしたんだけど、お姉ちゃんも一緒にどう?」

仕事やイベントなど、妹から今まで受けてきたどの誘いとも違う、革新的な提案でした。驚きつつも曉美さんは思いました。ありかもしれない。

「元々、肉や魚より野菜が好きだったし。その頃は、今ほど精進料理が浸透していなかったから、特別な感じを受けたんですね。新しくておしゃれじゃない! って思ったんです」

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その日から、「線を引いたように」ふたりの食生活……いえ、一緒に暮らす家族の食事も変わりました。肉や魚を使わないので、だしも昆布やしいたけなど植物性のものでとります。酒やみりんなどのアルコールを含む調味料は使わず、にんにくやねぎといった、五葷(ごくん)と呼ばれる匂いのきつい野菜も避けます。

「始めてみると、意外なものが使えなくて。たとえばケチャップやソースには、玉ねぎが入っていたり、和菓子に動物性の原料が使われていたり。これもダメなんだ! これもか!……って最初は少し戸惑いました。でも不思議と、元の食生活に戻ろうとは思わなかったなあ」

わからないことがあれば、先生である知人の家に聞きに行き問題をクリア。

「知識が増え、精進料理の中でできることが多くなっていくことにワクワクしました。最初は、肉や魚を食べない生活なんて、今までの暮らしとは遠いものだと思っていたんですよ。でも、いざ始めてみたらとにかく面白くて、意外にハードルは高くなかったんです」

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そして、ふたりが何よりも感じたのは「とても心地いい」ということ。お互いはっきりと口にしたことはないけれど、子どもの時から心の奥底に「動物を食べる」ことへの抵抗感が小さく横たわっていたといいます。自分たちの日々の食事は、命の上に成り立っているという自覚があり、そのことに対してモヤモヤとした感情を抱いていました。精進料理の生活を始めたことで、そのモヤモヤから解放されたのです。

菜食になったことで、体はうんと軽く健やかになりました。そして、心もすっきり。五月さんはいいます。

「昔は怒りっぽくって、怒りをエネルギーに変えているようなタイプでした。でも今は、怒ってもしょうがないって思えるようになったんです。そんなふうにどっしり構えていられるようになったのは、〝精進生活〞のおかげ。思考が穏やかになってきたと感じます」

「“これから”の暮らしと食卓」より
photo:濱津和貴 text:鈴木麻子

→vol.2につづきます


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