【建築家とつくるvol.1】心地よい窓辺がある家
「本当に住み心地のいい住まい」って何だろう?
大人になった今だからこそ、ふと考える方も多いのではないでしょうか。
モノが溢れ、家事導線もイマイチなどのちょっとした困りごとや、もっと快適な空間に変えたい、自分のこだわりを全て叶えたい! といった長年の夢も。また、子どもたちの独立をきかっけに、将来のことを考えた住まい替えを検討するなど。
連載「大人の住まい替え」では、これからの暮らしを見つめ直し家を住み替えたり、リノベーションしたりした先輩方の住まいをご紹介します。
本日から5日連続でお届けするテーマは「建築家とつくる住まい」。新鮮なアイデアと意図あるデザイン力に富んだ建築家がつくる住まいは、他にはない独自の仕掛けや工夫が多数。マンツーマンで作り上げるからこそできる、自由な発想でこだわり満載の家ばかりですよ。
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建築家・小野喜規さん 齋藤真紀さん夫妻の場合
今回ご紹介するのは、建築家の夫婦が、自分たちのために建てた「心地のよい窓辺がある家」。もともとご両親が住んでいた家を増築、リノベーションした小野喜規さん・齋藤真紀さんのストーリーをお届けします。
ふたりが共同設計したこちらの住まいは、1階が設計事務所のアトリエ、2階が住居になった一軒家。60~70年前からこの地を見守る大きなモミジの木が印象的で、しっとりと静かな佇まいながら、閑静な住宅街でひときわ目を引きます。
小野さんが意識したのは、これらの庭木を日々眺められる場所を作ること。それが、「心地よい窓辺の空間」でした。「ほどよい距離感で屋外の自然とふれあえる窓辺は、心落ち着く居場所になります。庭の木々を身近に感じることで、何気ない普段の暮らしが、こんなにも豊かになることを実感しています」
大きな窓のような、ガラス張りの玄関
玄関ドアに選んだのは、まるで大きな窓のような、ガラス張りの引き戸。これにより、そのすぐ前にあるモミジが部屋の中からも見え、初夏はみずみずしい青紅葉、秋は鮮やかな紅葉を楽しむことができるのです。
「以前は、モミジと建物が離れていたので、この存在をあまり意識することはなかったのですが、今回の増築で建物をモミジに寄せ、玄関を窓のように仕立てたことで、モミジがぐっと身近になりました。日々、目にすることで愛着がわいて、四季を感じる機会も増えましたね」
“座れる出窓”の楽しみ方
ガラスの玄関を入ってすぐの場所にあるこちらの応接ルームには、中庭に面した大きな出窓も。玄関側とはまた違った景色を楽しめます。大人が余裕で座れるほど深くせり出した出窓なので、ここをテーブルに見立てて中庭を見ながらお茶を飲んだり、直接座って読書をしたり。出窓ひとつで、いろいろな楽しみ方ができるのです。
さらに天気のいい日は、窓辺に庭木の影が落ち、枝や木の葉のシルエットが影絵のように室内に映り込みます。この美しい影も、計算して設計したという小野さん。天候や時間帯によって変わる、インテリアと自然の調和をイメージしながら、ひとつひとつの窓を配置したのだそう。
小窓に木枠をつけたワケは…
出窓の反対側の少し奥まったコーナーには、隣の家の緑を望むかわいい小窓が。ここには造り付けの小さなカウンターとル・コルビジェの椅子を配し、心地よいパーソナルスペースをつくっています。
通風や採光のためなら、アルミサッシの窓で十分。でも小野さんはここに、あえて格子の木枠をつけました。これにより外からの視線をほどよくシャットアウトしつつ、空間に心和む温かさをプラスしているのです。
このように、日々の暮らしにさまざまなシーンを作ってくれる、個性的な窓たち。これらの窓辺の空間が生まれた背景には、どんなストーリーがあるのでしょうか。
凸凹の家だからこそできた、個性的な窓
どんな環境や土地でも、心地よい光や風、景色を感じるスペースはつくることができる、と小野さんは話します。
「この家は、もとからあった庭木を活かすように作っているので、凸凹のある細長い、少し変わった形状になっています。ただ、そのおかげでシンプルな四角い家では得られない、個性が様々な窓辺を作ることができたのです」
窓辺で過ごした心地いい時間が、家づくりの大元に
窓辺でコーヒーを飲んだ時間、窓越しに見た景色、窓から入った風の音など……。小野さんにとって建物の中にいて気持ちがいいなと思った多くは、「窓辺で感じた何か」なのだそう。
「僕らがこれまで訪れた建物を思い出すとき、真っ先によみがえるのは、建物の姿かたちよりも窓辺の空間で体験したことばかりでした」
そうして、暮らしに心地よさをもたらす光、風、緑などを一番感じられるのは、窓辺だと気づきました。
「窓辺は室内において唯一、外とつながる特別なスペース。家は、家族がホッとできる場所。ホッとできる要素はいろいろありますが、緑などの自然もその1つですよね。五感で自然に触れると心地よいと感じるから、人はおのずと窓辺に近寄るのかもしれませんね」
「いい窓=開放的で明るい」ではない
「明るく開放的な窓が、いい窓とは限らない」と話す小野さんは、2階のダイニング・リビングにある大きな窓に障子紙を張りました。
「窓から見えるのが母屋の壁だったので、あえて障子で塞ぐことに。そのおかげで、障子紙を通した光は柔らかく、とても居心地がいい空間となりました。例えば、照明が部屋の隅々まで明るく照らす空間よりも、間接照明によってやんわりと照らされた部屋の方がくつろげると感じる人が多いですよね。これは家の採光でも同じだと気付いたのです」
今回の家づくりを振り返って、小野さんは……
「設計をする際に一番考えたことは、❝生活の中でどこが居場所になるか❞ということ。そこにほどよい光や眺めを楽しむことができる、ちょうどいい窓をちょうどいい場所にだけ作りました。壁や床、建具なども、温かみや表情のある質感を選んでいき、そうした積み重ねを経て、リラックスして落ち着ける家が完成しました」
家づくりで、広ければ広いほど、明るければ明るいほど「いい」と考える人は少なくありません。それも1つの考え方ですが、小野さん夫妻のストーリーからは、広さや明るさ、開放感を最大限にすることは、居心地のよさに直結するとは限らず、狭い土地でも、変形した立地でも、設計の力で心地よさを生み出すことができると気づかされます。
居住者構成:夫婦+子供1人
敷地面積:増築部 建築⾯積 39.38㎡
延床面積:増築部 85.69㎡
建築事務所:オノ・デザイン建築設計事務所
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