リズムのおへそ ― 「東京香堂」ペレス千夏子さん、ジョフレさん vol.2
行きすぎない、でしゃばらない、欲張らない。
腹八分で、余白をつくることで
本当に大切なことが見えてくる。
群馬県のラボは、利根川の上流のほとりに立つ。秋の紅葉、冬の雪景色、春の桜と、四季のめぐりを感じながら散歩をするのが楽しみ。それぞれがひとりで出かけることも。
「ほんのちょっとのパーセンテージで、香りってガラッと変わってしまうので、集中して作業をします。逆に言うと、集中できないときには仕事をしないほうがいいということ。心がざわざわしていると、ざわざわとした香りになってしまうので、疲れたなと思ったら散歩へ。自然に触れると、リセットできますね」
ジョフレさんと出会ってから、暮らしも生き方も、無駄なものをそぎ落とし、どんどんシンプルになったそう。
「彼が育った南フランスは、自然が豊かで、そこで暮らす人は本当に質素で欲張らず、常にその日の生活に感謝をして、日常の小さなことに幸せを感じているんです。欲が出ると、香りも欲深いものになってしまいます。まず自分たちがどういうもの作りができるのか? その立ち位置をきちんと決めないと、香りに出てしまう……。強い香りや、前に出る香りって、毎日使っていると苦しくなりますよね。一歩引いて、余白のある、生活に寄り添う香りが作れればなと思います」
もちろん、日々の生活のなかでご自身たちも香りを楽しみます。朝昼晩と香りを替えてみたり、光が差し込む場所にお香を立てたり。おもしろいのは、2~3種類の香りを組み合わせる「空間調香」。部屋の中で、香りが溶け合って、新しい香りに変化します。
最近では、国内外から「こんな香りを作って欲しい」というオーダーが入り、どんどん忙しくなってきたそう。それでも、ふたりは川のせせらぎの音を聞きながら、マイペースでお香を作ります。
朝、自分のスイッチを入れたり、ちょっとほっとしてくつろいだり。香りで暮らしのリズムをつくる……。お香が「おへそ」=習慣を生み出す道具となることを、教えていただきました。
仕事机の上をきれいに拭き清めて。
粉を取り扱うジョフレさんは、窓を開け、壁についたものを落としてから掃き掃除を。練り機も香りが残らないよう掃除する。
石けんは良質のハーブか無香料に
洗濯から体を洗う洗剤まで極力無香料のものを選ぶ。調香の前日は、にんにくやねぎなど、香りの強いものも食べないようにしているそう。
ものを持ちすぎない
ジョフレさんの洋服はほんの少し。かつては服飾業界にいた千夏子さんも「もっともっと」と欲張らないよう、気をつけるようになった。
祈りの香りをもつ
お香の煙は
見えない世界とつながるため。
手を合わせれば謙虚になれる。
空間で調香する
違う香りのお香を組み合わせて焚くと、空間で香りがハーモニーを奏でて新たな香りを生み出し、まったく違う楽しみ方ができる。「香りを離して配置して、強弱をつけるとまた違った香りになります」
部屋に祈りの場をつくる
東京の自宅では神棚を設けて、毎朝まわりを清めてお香を焚く。「神棚がなくても、石や植物、キャンドルなど自分が好きなものを置いて『祈りの場』をつくるのがおすすめです」
『暮らしのおへそ Vol.29』より
photo:有賀 傑 text:一田憲子
Profile
ペレス千夏子さん、ペレス・ジョフレさん
千夏子さん/1935年創業の寺院専門の線香専門店の孫として生まれる。美術大学卒業後、テキスタイルデザイン事務所でテキスタイルデザイナーとして活躍。妹と共に実家を継ぐことを決め、フランス・グラースの調香学校で学ぶ。
ジョフレさん/フランス・グラース生まれ。地元の香料会社で13年間働く。千夏子さんの帰国に伴い来日し、結婚。ふたりで「東京香堂」を立ち上げる。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。