幸せを運ぶ人・フルタヨウコさんが作るジャム

今日のひとしな
2018.02.28

~ 「組む東京」 vol.28 ~


一ヶ月間、「今日のひとしな」のコーナーを担当させていただき、とうとう最終日がやってきました。私は、最後に、永遠に手に入らなくなってしまった物のことを書こうと思います。だからこそ同時に、永遠に心に残るものになった「ひとしな」。「HOME.」のフルタヨウコさんが作るジャムです。

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<HOME. フルタヨウコさんのジャム photo: SUGA KOJI @組む>

ヨウコさんはある日、「訓子さんもジャムはそのまま食べる派かー」と言って、笑いました。私はヨウコさんのジャムは、何にもつけずに、それだけで食べるのが好きなんです。

パンにつけたり、ヨーグルトにトッピングしたり、ソーダで割ったりするのも、もちろんとても美味しいのですが。ヨウコさんの作るジャムは、そのものだけで味わってみたいと思うジャム。ヨウコさんが「訓子さん“も”」というからには、多分、私みたいな人がたくさんいるのだと思います。

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<HOME. フルタヨウコさんのジャム photo: SUGA KOJI @組む>

このジャムは、厳選された素材で作られています。ビンの後ろを見ると、果物の産地が書いてあるのですが、それはもう、日本全国津々浦々。果物が大切に育てられている景色が思い浮かび、そこに旅をしたくなるような記述があって、それを見た時点から、もうジャムを味わうことが始まっています。この果物の生産者の方々は、ヨウコさんだからこそ出会うことができた、とびきり素敵な人たちに違いないのです。

果物は無農薬栽培で、調理は無添加にこだわっています。安心な素材なので、果物の皮をしっかり生かしたレシピもあって、皮の風味や食感が好きな私は、「さすが、フルタさん」と、とても嬉しくなるのです。

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<フルタヨウコさん One day café スコーンとHOME.のジャム 器:飯高幸作 photo:SUGA KOJI @組む>

さらに、興味をそそられるのは、その意外な果物の組み合わせや、ハーブ、スパイスとの取り合わせです。例えば、りんごと金柑、すだちと生姜、ルバーブとバナナ、洋梨とピンクペッパー、桃とミント。シナモンをきかせたり、バニラを香らせたり。まるで楽園の食べ物みたいだと思いませんか? 聞くだけで芳しい香りが漂ってきそうです。

産地とのつながりと豊かな発想力、そして深い愛情がないと作れないジャム。ネットで発売されると、瞬く間に売り切れてしまうと評判で、大阪からの出張ついでに、毎月のようにジャムを求めに来るお客様もいらっしゃいました。

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ヨウコさんは、もともと果物に縁の深い方で、お父様のご実家は、長野で果樹園農家をしておられます。子供の頃、毎年夏休みには、お兄さんと2人でプラムの収穫の手伝いに行っていたそうです。果樹園の孫娘、ヨウコさんは、2013年に「果物のごはん、果物のおかず」を著しました。副題には「いつもの食材と果物の、思いがけない組み合わせ」とあり、果物を食材として、また調味料やスパイスのように使っていて、ワクワクするようなレシピが紹介されています。撮影もスタイリングもご自身でされ、波多野光さんの挿絵も内容にピタリとあっていて、彼女の食材や料理への思いが伝わる一冊になっています。

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<フルタヨウコさん One day café 器:飯高幸作 photo:SUGA KOJI @組む>

ヨウコさんは、このジャムをご自身の手で納品してくれていました。頼むわけではないのに、いつもちょうど良いタイミングに、「そろそろなくなった?」とか言いながら。だから、「組む」には、いつも四季折々のジャムがあり、それが季節の知らせのようにも感じていました。

最後のジャムは、「組む」でシャツの展示会をされていた「AIR ROOM PRODUCTS」の代表・カモさんに差し上げました。2月3日のことです。紅玉りんごのジャムでした。手渡した瞬間を今も何度も思い出し、一生忘れないシーンになったのは、フルタヨウコさんが2月5日に急逝されたからです。

もう手に入らなくなってしまったものを、「今日のひとしな」に書くというのは、このコラムの趣旨に叶っているのかどうか迷いましたが、私が心に大切に抱く「ひとしな」として、取り上げさせていただきました。

先月、こちらのコラムに取り上げる品物のリストを担当編集者の方にお送りしたとき、2月22日の欄に「フルタヨウコさん、HOME.のジャム」と書きました。その時には、彼女がこの世を去ってからこの記事を書くことになるなどとは、けしてけして、思わなかったことでした。

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<フルタヨウコさん One day café photo:SUGA KOJI @組む>

10数年前に初めて会った頃から、ヨウコさんは、写真の仕事、編集の仕事、食の仕事を同じくらいの割合で手がけ、縦横無尽に活躍なさっていました。才能あふれ、賢くて、様々なことに驚くほど造詣が深く、頭がやわらかくて、自由で、自然体で、あたたかく、心が通じる。長い間には数え切れないほどの思い出があり、本当にたくさんの場面で、ヨウコさんに助けてもらいました。3年前に「組む」がオープンした時には、ヨウコさんがオープニングレセプションのお料理を作ってくれました。深く信頼するヨウコさんがそばにいてくれるだけで、どんなに安心で心強く、嬉しかったかわかりません。

フルタヨウコさんは、幸せを運ぶ人でした。私にとっては、自由に飛び回る青い鳥のようなイメージです。フルタさんがその生き方で示してくれたように、「組む」も皆さんと幸せな時間を共有できる場所であり続けたいと思います。

最終日のコラムは、私の我が儘をお許しいただき、フルタヨウコさんに捧げたいと思います。
ヨウコさん、あなたに会えて本当によかった。
心からの感謝を込めて。

「組む東京」代表
小沼訓子

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<フルタヨウコさん One day café  photo:SUGA KOJI @組む>

 

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組む東京

国内外のものづくり、手工業の交流拠点となる場として、ショップ、ギャラリー、コミュニティ・スペースの機能をもつお店。「今日のひとしな」の執筆は、代表・キュレーターの小沼訓子さん。

 

東京都千代田区東神田 1-13-16
tel:03-5825-4233
営業時間:12:30~19:00
不定休(サイトをご確認ください)
http://www.kumu-tokyo.jp/
インスタグラム「@kumutokyo

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