たい焼きと、ナイフの名品「Jean Dubost（ジャン・デュボ）」

〜「PETIT BONHEUR」より vol.22 〜

洋服屋の私が、まさかカフェをはじめるなんて…。
人生は何が起こるかわかりません。

本日は、ドイツのゾーリンゲンと並ぶ刃物の町、フランス中部にあるティエールのカトラリーメーカー「Jean Dubost」、そしてカフェ「FILLING」の誕生秘話をすこしだけ。

ご紹介するのは「Jean Dubost」のライヨールシリーズ。ハンドルにあしらわれた“丸花蜂（マルハナバチ）”のモチーフが有名です。セミのようにも見えるけどハチです。

地名を冠するブランドとして有名な“ライヨールナイフ”。もともとライヨール村の羊飼いが考案したといわれていますが、村に刃物の鍛造技術がなかったため、隣町のティエールで作られ、現在に至ります。

そんな歴史があって、“ティエール産のライヨールナイフ”という、ちょっとややこしいことになっています。

“ライヨール”は“ラギオール”とも呼ばれますが、これはフランスの方言で、北部だと“ラギオール”と濁り、南部は“ライヨール”と発音されるのだそう。

日本でも“高田さん”の読み仮名が、東ではタカダさんと濁り、西ではタカタさんと濁らないのに似ていますね。

さて、昨年10月にオープンしたカフェ「FILLING」では、「Jean Dubost」のライヨールシリーズを使っています。長年の愛用者としては、お客さまにその切れ味を体験してもらいたくて、たい焼きを提供するときにも「Jean Dubost」スペシャリティナイフを添えています。

「たい焼きを食べるのにナイフなの！？」と驚かれますが、恐縮ながら店主の趣味にお付き合いいただいています。

あまりの使いやすさに、お帰りのときに店頭で販売しているスペシャリティナイフをお買い求めになるお客さまもちらほら。「FILLING」一番の売れ筋商品だったりします。

ショップ紹介でも少し触れましたが、3年前の大規模な豪雨災害までは「秋山製菓舗」という老舗の和菓子屋さんがこの場所にありました。人吉のおもたせといえば「秋山製菓舗の温泉饅頭」が定番。

そして、店先では「およげ！たいやきくん」の歌が流れ、“たい焼き“が焼かれていました。それが人吉市の中心街・札の辻交差点におけるあたりまえの光景だったのです。

「ずっとあたりまえなことも、実はあたりまえではない」それを思い知ったのが、3年前の豪雨災害。球磨川に近い「秋山製菓舗」の被害は大きく、店舗と工場は天井まで浸水、水がひいたあとに残されたのは、修理できないほどに壊れた製造機械と大量の汚泥。

いつでもあたりまえに食べることができた温泉饅頭もたい焼きも、そうではなくなってしまいました。

「秋山製菓舗」だけでなく、周辺の店の多くは営業再開の目処が立たないまま、廃業する店が増えました。古い建物は取り壊され、城下町の商店街として賑わった九日町には空き地が目立つようになりました。日が暮れても灯りが灯ることはなく、真っ暗な街。

そういう状態が続く中で、「秋山製菓舗」４代目店主・秋山竜雄さんの妹・敏江さんが、独身時代に「PETIT BONHEUR」の店長を務めていたというご縁がありました。この商店街に生まれ育った私たちにできることはなんだろう？ 少しでも人吉の活気と人々の笑顔を取り戻せないだろうか？ という思いで生まれたのが、この、カフェ「FILLING」です。

オープンが決まり、道路に面した店舗部分をカフェスペースに大改造。裏手にある工場では竜雄さんが、北海道産の小豆、あとは砂糖と塩だけで自慢の自家製餡を練り、毎日たい焼きを焼いてくれています。コーヒーと餡子って、すごく相性がいいのです。

たい焼きは、つぶ餡と黒胡麻餡の2種。カフェ店内でお召し上がりのときには、前述のとおり「Jean Dubost」のスペシャリティナイフをお持ちします。ぜひ使ってみてくださいね。

なんということでしょう！ この見事な切れ味…。
甘さと塩気のバランスが絶妙な自家製餡がたっぷり入っています。

毎日、近所の商店街の人たちが休憩やランチに立ち寄ってくれることは、とてもうれしいことです。かつてこの町で愛されたいくつもの喫茶店のように、これから長い時間をかけて、地元の人たちの「日常だけどちょっと特別な時間」を過ごしてもらえる店になっていけたらいいなあと思っているのです。

■Jean Dubost/ジャン・デュボ

FILLING ＠filling11044

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