デコボコのおへそ ― 「スクランプシャス」主宰・中山ヤンさん、ノリミさん vol.1
いいところは真似をして
悪いところは補って。
違いがあるから、ふたり分成長できる。
海の見える斜面には土地の上下に2軒の建物があり、ここは「シタ」と呼ぶ洋服や小物を販売するためのショップ。今は不定期にオープンデーだけ営業している。「ウエ」では不定期に食のイベントなどを開催。店名「SOJI BŌKEN」は手放された荒地をsoji「素地」とし、1ページずつ旅するように記録しようと、北欧の言葉で本の意味をもつboken「冒険」を合わせた造語。
細かなギャザーを寄せた袖がふんわりふくらんで、胸もとには、型から自分たちで作ったという錫製の小さなボタン。「スクランプシャス」の洋服を手に取ると、そのディテールの細やかさにため息が出ます。
神奈川県真鶴でこの小さな服飾メーカーを営んでいるのが、中山ヤンさんとノリミさんです。洋服を作るのがヤンさん、生産管理、発送、広報などを引き受けるのが姉さん女房のノリミさんです。「やっちゃん」「のんちゃん」と呼び合う仲よしのご夫妻。そのおへそは、いつもふたりでひとつです。
朝起きると、一緒にお仏壇に手を合わせます。朝食は、ふたりでキッチンに立って「中山家特製シリアル」作りを。ひとりがバナナをカットしたら、ひとりがヨーグルトを出してと、あうんの呼吸で準備が進みます。
人生の歩み方もそうでした。都内でパソコンの講師をしていたというノリミさん。ヤンさんは北海道の古着屋さんで働き、仕入れのために上京した際、知り合ったそうです。
一緒に暮らしはじめると、ヤンさんの古着屋さんでの経験と、ノリミさんのパソコンスキルを生かして、ヴィンテージ雑貨を販売するウェブショップを立ち上げました。その後、鎌倉にお店をオープン。少し軌道に乗り始めた頃、ノリミさんはヤンさんに「もう一度洋服を作ってみたら?」と声をかけました。実はヤンさんは、大学時代に独学で洋服を作りはじめたものの、途中で挫折してしまったそう。
「一点もののヴィンテージの洋服は売ればそれで消えてしまいます。それがもったいなくて……。古さを今に生かした服をやっちゃんが作ればいいと思ったんです」とノリミさん。
「あのときのんちゃんが背中を押してくれなかったら、今服を作っていない。感謝しています」とヤンさん。
こうして生まれた「スクランプシャス」の服は、丁寧に時間をかけた仕立てで、細部に民族衣装のストーリーを秘め、たちまち評判になりました。
お仏壇に手を合わせる
お仏壇は、両親を見送ったノリミさんが実家から引き取った。ノリミさんはもちろんヤンさんも必ず一緒に義父母に手を合わせてごあいさつ。
体を整える
朝食は、シリアルに豆乳、ヨーグルト、バナナ、ドライフルーツ、手作りジャムを加えた「中山家スペシャル」
自分の手を動かす
掃除も洗濯も保存食も
自分の手を動かせば
暮らしのひとコマが豊かになる。
手が空いた人が、できることをする。それが中山家のルール。食事の準備は大抵ふたりで。疲れたときは無理をせず相手にまかせることも。
キッチン掃除は「パストリーゼ」で
元は民宿だった建物なので、キッチンは広々。調理台などの掃除には、除菌用アルコールの「ドーバー パストリーゼ77」を。油汚れがさっと取れる。
塩レモン、酢レモンを作る
「SOJI BŌKEN」の庭で収穫したレモンをスライスして、「塩レモン」と、酢を入れた「酢レモン」を常備。味の奥行きを出す調味料として使う。
ウールは手洗いする
ウールやカシミヤ、シルクなどは手洗いを。洗い桶にぬるま湯を張り、「ザ・ランドレス」のウールカシミヤ専用洗剤で泳がせ洗いをする。
綿、麻は大きめのネットで
綿や麻のシャツやワンピースなどを洗濯機で洗う場合は、少し大きめのネットに入れて、水や洗剤がよくまわるようにするのがコツ。
※5月4日現在「SOJI BŌKEN」のオープンデーは休止中です。再開時期はHPでご確認ください。
『暮らしのおへそ Vol.29』より
photo:枦木 功 text:一田憲子
Profile
中山ヤン 中山ノリミ
「スクランプシャス」主宰。1999年、東京でヴィンテージショップとしてスタート後、鎌倉に路面店をオープン。独学の洋裁で、2009年より仕立てを重んじたオリジナル制作を始める。2011年真鶴半島移住後はお針子チームだけで仕立てる服飾メーカーに。2018年、荒地を開拓しはじめた「SOJI BŌKEN」を始動している。
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