無意識を信頼する vol.4 医師・稲葉俊郎さん

暮らしのおへそ
2019.01.17

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子どもは無意識がやりたいように
体の欲求のままに生きている。
子どもから学ぶことは多いです。

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体の調和を取り戻す
プロセスが生きるということ

「人間の体というのは、調和と不調和の間を行ったり来たりしながら、常に変化する場です。自分の体と心を整えながら、崩れてしまった調和を取り戻すプロセスこそが生きるということ。医療の本質というのは、体と心の全体性に関わるもので、その人を健康にしたり元気にしたりするものです。どうしたらこの人はよりよい人生を送ることができるのか。それをサポートするには、西洋医療だけでなく、いろいろな選択肢があると思います」

お能を習いはじめたのも、医療現場での葛藤がきっかけでした。もともと学生の頃からお能に興味があり、よく足を運んでいたそうですが、東日本大震災後にボランティアとして福島に入り、多くの死に直面したとき、自分が求めていた医療の一部は能の世界にもあったと気づいたのだと言います。

「西洋医学における医者の仕事は患者さんを生かすこと。亡くなった方に対してどうするかは専門外です。でも、死も含めて医療ではないかという違和感があり、葛藤や迷いをずっと抱えていました。それが福島の体験で突然つながった。お能では主役が死者です。死者の視点でこの世を見ると見方が変わります。そして、死者に対して遺された側がどう弔うかという鎮魂の役割を、まさにお能が担っていた」

これまで常に生きている側の視点から死やあの世を見ていたのが、能と医療がつながり、死者の視点を持ったことで、短期的な視点で患者さんを診ることがなくなったという稲葉さん。

「私のなかでパラレルに複数の線路が走っている感じが常にあります。1カメさんは『痛い』という表面上の訴えを、2カメさんはその人のこれまでに至る人生の歩みを、3カメさんは先祖も含めた家族のホームドラマを撮っているような感覚です。結果的に同じ治療だとしても、恐らく受け取る側の感じ方は違うのではないかと思いますね」

確かに、病気になったら稲葉さんのようなお医者さまに診てもらいたい。誰もがそう思うはずです。

「だからといって、自分の体を人任せにはしないでくださいね」

と稲葉さん。体はみんなに平等に与えられたいちばん身近なもの。もっと自分本位に、“自分事”として自分の体とコネクトしなくてはと思いました。

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「この造形にイマジネーションを刺激されます」。熊本では子供が生まれると軒先に竹細工を飾る風習があったのだそう。

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左は稲葉さんが通っていた高校の椅子、右は稲葉さんが幼い頃使っていたものを寿太郎くん用に塗り直した。

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戦後、ものがない時代。祖母が初めて作り、愛用し続けた箪笥を受け継いだ。


暮らしのおへそ Vol.26」より photo:馬場わかな text:和田紀子

Profile

稲葉俊郎

Toshiro Inaba

医師、東京大学医学部付属病院循環器内科助教。医学博士。西洋医学だけでなく、伝統医療、代替医療、民間医療も広く修め、伝統芸能、芸術、民俗学、農業など、あらゆる分野と医療との接点を模索している。著書に『いのちを呼びさますもの ひとのこころとからだ』(アノニマスタジオ)がある。https://www.toshiroinaba.com/

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