鍼とお灸で身体を整える vol.1

からだ修行
2018.08.27

今月の先生:金子マナさん


鍼灸院といえば無機質で、白衣着用のおじさん先生が多いイメージですが、渋谷区富ヶ谷に、女性が営む、まるでカフェのような鍼灸院を発見。友人の家を訪ねたような気持ちのいい空間で、心地いい身体メンテナンスを体験しました。

photo:砂原 文 text:田中のり子

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ブルーグレーの木の扉をカランと開けてみると、ぱっと目に入るのは、頭に可愛いターバンを巻いた骨格模型。待ちあい椅子にはアコーディオンが置かれ、大小の鉢植えが光を浴びて、気持ちよさげに並びます。まるでハワイかポートランドのカフェのよう? いえいえ、こちらは鍼灸院。その主は、エプロンを締めた鍼灸師・金子マナさん。

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「足を運んでくれる人に、何しろリラックスしてほしいと思い、こういう雰囲気の空間にしました。私自身、具合が悪いときに無機質な病院や治療院に行くと、ちょっと緊張してしまうタイプ。私の家に『お茶を飲みに来た』ような気持ちで、治療を受けてほしいなと思っているんです」

実際、田中が最初に訪れたときは、ご近所のおばあちゃんが「近くに来たから」と、ただお茶を飲みに立ち寄っていました。まるで地域のサロンとなっている喫茶店のよう。さらには「私自身が、夜更かしタイプの悪い鍼灸師だから(笑)」と、夜遅くの施術も相談次第で受け付けていて、仕事帰りの人々も多数立ち寄っている様子。

「一生懸命仕事している方にも、来てほっとしてもらいたいと思って。帰り道に寄れれば、そのまま家に帰って寝られますよね。仕事前や昼休みの時間に来ていただいても、せっかくゆるんだのに、そのあとまた頑張っちゃうから、もったいない。また、旦那さまが家に帰ってきてようやく外出できる子育て中のお母さんもいたりするので、夜にもできる限り対応したいと思ってやっています」

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心理学に興味があり、音楽も好きだったという理由から、大学時代は、音楽療法を学んでいた金子さん。けれど、その療法自体がシャイな日本人向けにはなかなか難しいこと、自分自身の音楽への才能にも疑問を感じ、卒業後はちんどん屋(!)というユニークな職歴を経て、飲食業界で働くようになりました。

音楽療法も飲食業も、『生きづらく感じている人が、もっと楽しくなってほしい』という発想だったんです。いいレストランは、食べた人がみんな喜んで楽しんで、いい顔になって帰っていく。それは、身体を癒す治療院などと、同じことだと思えたんです」

若い頃からホスピタリティマインドに溢れていた金子さん。というのも自分自身が、さまざまな不定愁訴に悩む子ども時代を過ごしていたからだとか。

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「大病を患っていたわけではないですけれど、よくめまいがしたり、気持ちが悪くなったり。まわりからは『気のせいじゃないの?』『仮病なんじゃないの?』と思われる。『調子が悪いと『また?』と言われて、よく小さく傷ついていました(笑)」

私自身も、子どもの頃しょっちゅうお腹が痛くなるタイプで、痛くなることに罪悪感を持つことも多く、その辛さはよく理解できます。でも金子さんはそんな中、「辛い人を助ける仕事がしたい」「不調がある人でも、楽しむことで元気になってもらいたい」と、考えるようになっていったそう。「親が持っていた手塚治虫の漫画『ブラックジャック』をくり返し読んだことも影響したのかもしれない」と笑います。

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飲食の仕事はとにかく忙しく、「一生分働いた」と振り返るほど。最後のほうは、店の立ち上げを担当することになり、一日16時間働くような日々が続いたといいます。いろんな従業員がいるので「猛獣使いのように怒ることも多かった(笑)」とも。今のふんわりおだやかな雰囲気の金子さんからは信じられない感じです。

「飲食の仕事は13年間がんばりました。最後の年に、一緒に暮らしていたおばあちゃんが亡くなって、『人はいつか死ぬんだな』ということを、初めて強く実感して。『こんなことをしていてはいけない!』と仕事を辞め、鍼灸学校に通うことにしたんです」

このとき金子さんは36歳。それまでもマッサージの講習を受けたり、アロマテラピーの勉強をしたりもしていましたが、いちばんしっくり来たのは鍼灸だったそう。

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より多くの人と関わりたいと思ったときに、学問として体系立っていて、広く認知されているもののほうが、より受け入れてもらいやすいと思いました。理解の間口が広がるというか。自分の身体にも合っていたし、学べば学ぶほど面白く感じられて。そして鍼灸だったら、自分がおばあさんになっても、やっている姿が想像できたんです」

というのも金子さん、飲食店勤務時代はひどい花粉症でしたが薬を飲むのが苦手で、くしゃみが止まらず、年に1~2度はぎっくり腰になるのが恒例行事。それが腰の治療のために、とある鍼灸院に行ったところ、腰の痛みがなくなるだけでなく、くしゃみもぴたりと止まったことがあったとか。「東洋医学ってすごい、鍼灸ってすごい」と実感したそうです。

学校時代は、練習のために生徒同士がお灸や鍼をし合います。虚弱体質で敏感だった金子さん、体調は悪くないのに刺激を施すものだから、身体にはしっかり影響が出て、汗だくになってのぼせたり、気持ち悪くなったり(笑)。そのたびに「鍼灸って、やっぱり効くんだな、すごいな」と思ったそう。

3年間学校に通い、卒業後はしばらく勉強会などに参加しつつ、前から狙っていた現在の物件が空き、小さな治療院を開業したのが2016年7月のこと。「鍼って痛そう」「お灸って熱そうで怖い」。そんな風に思う人こそ、気軽に来てほしい場所として、オープンしました。

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さていよいよ、本日の田中の調子を診ていただきます。問診票に書かれた質問事項に記入し、そのあとていねいなヒアリング。現在の体調はどんな感じか、普段の体質は。お茶を飲みながら、ゆったりと話し合います。

→vol.2へ続きます

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ハリトオキュウ

東京都渋谷区富ヶ谷2-21-8 ビルファイブ富ヶ谷102
TEL:03-6886-5748
初診1時間6000円、はりきゅう治療40分5000円、おきゅう教室1時間3000円
オンラインにて申込み

Profile

金子マナ

Mana Kaneko

日本大学芸術学部卒業後、チンドン屋を経て、飲食業界へ。退職後、鍼灸専門学校を経て、鍼灸師に。2016年、渋谷区・富ヶ谷に「ハリトオキュウ」を開院。

田中のり子

Noriko Tanaka

衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。

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