料理家・渡辺康啓さんインタビュー(後編)「おいしいものは意志の力が作る」

おいしいの、段取り
2016.03.16

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料理家・渡辺康啓さんインタビュー前編)はこちらから

 

「まずは調理前の食材を、料理ごとにひとつのバットにまとめておく。そうすれば、頭の中の整理がついて、ゴールまでの行程が具体性を持って明確なものになりますよね。そして、次は素材の切り方。どういう料理にしたいのかが決まれば、どう切ればいいかもおのずと決まってきます。同じ素材を乱切りにするのか、せん切りにするのかでイメージも食感も変わりますよね。切り方って、実は美しい料理を作るためのいちばん重要なポイントなんです」

ふだん何げなく作っている料理も、切り方を変えてみる。それだけで、いつもの料理の新たなおいしさが見えてくるはずだと。

「ほら、これなんかがいい例」

と渡辺さんが見せてくれたのは、皮ごと薄くスライスしたりんごを重ねるようにして並べてオーブンで焼き、生クリームをかけたもの。え? これが焼きりんご? と驚くほど、その名前から連想するイメージとはかけ離れた、繊細で洗練されたひと皿でした。

「料理教室では3品の料理に1品デザートをつけて、計4品作って食べますが、イメージしたのは、料理を食べたあとにも食べられる焼きりんご。最後に丸ごと1個の焼きりんごは、さすがに食べられない。でも、こうして薄くスライスして並べただけで印象が変わるし、軽い料理になる。そして、何より美しいでしょう?」

 そんな渡辺さんでも、時にはイメージと仕上がりがずれてしまうことはあるのだとか。

「ずれたら、それは修正すればいいだけのこと。だから、まずい料理というのは絶対にできないはずです。なぜなら、僕の中には、絶対おいしいものを作るという強い意志がある。おいしいものは意志の力が作ると思います。外食するときも、作る人の意志がこもっているかどうかが僕の中での基準。それは近所の定食屋さんでも、高級なレストランでも、同じです。料理は、おいしくなるのではなく、作る人がおいしくするんです」

料理に意志を込めるとは、具体的にはどういうことなのか。

「洋服でも、服に自分を寄せるのではなく、服を自分に寄せる。自分が決めるということが大事です。たとえば、これだけのおだしに塩を小さじ1杯入れましょうと書いてあったら、ただレシピ通りに入れた場合と、このだしにどのくらい塩を入れたらおいしくなるかを考えながら入れたときの塩がたまたま小さじ1杯だったときの味とでは、絶対に違うはず。自分の意志を料理に込めるというのは、そういうこと。それって、おいしくするためにはとても大事だなと思いますね」

料理をおいしくする最後の調味料は愛情だと言うけれど、愛情以上に重要なのは、おいしくするという「意志」。

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「あとは、料理をするときは、いい道具を使ってください。液だれのするボウルって、すごくストレスでしょう? そういう調理ストレスが軽減すれば、味にもストレスがなくなります。結局、おいしい料理って、無理がないということ。そして、無理がないものは美しい。僕にとって、料理とは美しいもの。美しいものは、当然おいしいものだから」

『おいしいの、段取り』より text:和田紀子 photo:亀和田良弘

Profile

渡辺康啓

Watanabe Yasuhiro

大学卒業後、「コム デ ギャルソン」に勤務。2007年に料理家として独立。東京・二子玉川での料理教室を経て、現在は福岡在住。食にまつわるさまざまな活動をしている。www.igrekdoublev.com

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