アンティーク家具の名店でセンスを磨いた「MOBLEY WORKS」鰤岡さんのリノベ住宅

Comehome!
2022.10.27

※Come home! webに掲載された記事を転載しています

「ギャラップ」「デポー39」など時代の先駆けだった名店からアンティーク家具の修復をまかされ、その後も家具製作や空間デザインのセンスと技術を磨いてきた「MOBLEY WORKS」の鰤岡さん。ご自身の暮らしの拠点として選らんだのは豊かな自然のなかに立つ、築70年の家でした。創作の原点でもあるカントリースタイルを「今の暮らしにカッコよく落とし込みたい」。そんな思いでリノベーションしたご自宅には尽きることのな探求心が刻まれていました。

日本の里山100に選ばれた豊かな自然環境に立つ、鰤岡さんの家。完成から4年がたち、レッドシダーの板壁が経年でぐっと趣を増している。

「バーモントキャスティング」の薪ストーブが似合うリビング。天井裏に隠れていた丸太の梁を見た瞬間、この家の構想が決まった。レッドシダーの板壁は色や木目が美しく、ぬくもりと洗練さを感じる。

MOBLEY WORKS 鰤岡力也さん

アンティーク家具の修復士として、家具や建物の造形・塗装の技術を磨いた。現在はオリジナル家具の製作や店舗・住宅のデザインを手がける。

家具のほとんどは鰤岡さんの手がけたもの

壁や天井を取り払い、構造上必要な梁と柱を残した。建築会社の協力のもと、建材の選択、内装のデザインから家具と建具の製作まで鰤岡さんが行った。

アメリカンミッドセンチュリーのデザインを取り入れたチェスト。このほか、ソファやオットマンも自作。

ギターやバイオリン製作にも用いられるセラック塗装で、光沢を出した天井板。高窓から入る光を反射させて室内を明るくするねらいが。

アメリカの古材から切り出した、ピッチパインという目の詰まった良質なパインを床材に。

素材にこだわり米軍ハウスやミッドセンチュリーなど
好きな世界のディテールを取り込んだ新しいカントリースタイルを実践

 菓子職人の奥さまと、7歳の娘さんとの3人で暮らす鰤岡さん。4年前、子育てにいい環境に家を構えようと土地を探しているとき、築70年のこの家に出会いました。「最初は新築を考えていたけど、裏山も含めた300坪の土地付きというのが魅力で。家は手を加えればどうとでもできると思っていたから」と、鰤岡さん。どんな家にしようか悩んでいたとき、躯体を調べようと天井裏をのぞいて立派な梁があることに気づきました。「これを見て、カントリースタイルと僕の好きなミッドセンチュリー、シェーカーの要素を入れた家にしようと構想が固まったんです」
 まずこだわったのは素材。アメリカのデザインなら、素材もアメリカのものを選ぶ。そうしないとどこか違うものになってしまうのは、アンティーク修復の経験から学んだこと。壁や天井に張ったレッドシダー材は、実際に使う量の3倍仕入れ、色調の合うものだけを選びました。天井の塗装は、アメリカの昔ながらの技法を再現し、10工程もの手順を踏んで仕上げてあります。

ポップなスツールが不思議と似合う古き良きシェーカーキッチン

木製キッチンに、オレンジ色のガラスペンダントライトや丸テーブルとスツールなどモダンなアイテムを合わせてあるのがおしゃれ。

ダイニングコーナーの右手が玄関、左のドアから廊下へと出る間取り。

キッチンの開口に施されたモールディングの効果で、向こう側の景色がぐっとカッコよく見える。

「KHOLER」のファーマーズシンクがお気に入り。

昔ながらの形の木製スツールをポップな色のエナメル塗装で仕上げたカントリーとミッドセンチュリーのいいとこ取りのような一脚。

「ぼくのいちばん好きな本です」と、鰤岡さんが見せてくれたのは、1948年に発行されたという『DEPENDENTS HOUSING』(連合軍住宅の記録)。米軍ハウスについて設計図や写真を使って詳細に解説した本で、発行部数は1500部というレアもの。「国会図書館で全ページコピーして何年もそれを手に研究していたんだけど、最近ようやく本物を手に入れました」とうれしそう。
 なるほど聞けばこの家のあちこちに米軍ハウスから学んだ、アメリカのデザインや技法が使われているのがわかります。「キッチンは最初からシェーカーにしようと決めていました、昔ながらの手作りで、実用的なんだけど、変わらずに格好がいいデザイン」。取っ手は自作のものをつけ、この家のコンセントに合わせてアレンジ。木のぬくもりとモダンなデザインをミックスした、ラウンドテーブルとエナメル塗装のスツールも鰤岡さんの作品。シェーカーキッチンとマッチしていて、なんとも絵になります。

ルーツを考え、自分らしい形を探してデザインに落とし込みました

ドアにも額縁にも玉縁と呼ばれるモールディングを施している。仕上げに、ボイルリンシードオイルを自分で調合して塗装。

アメリカの雑貨店で見てほれ込んだ「KHOLER」のブロックウェイシンクを採用。

オリジナルブラケットライトが廊下のアクセントに

白壁に整然と並んだドアとブラケットライトが美しい。左手のリビング側の壁は上部があいているため、高窓から入る光がリビングの天井に反射して、廊下をふわりと照らしている。

こちらも鰤岡さん作。木工旋盤で作ったクラシカルな台座にぽってりと丸いLEDのクリア球の組み合わせが印象的。

 ご自宅を見せてもらい、どこよりほれぼれしたのが廊下の景色。モールディングの額縁に囲まれた木のドアの連なりが、シンプルな空間に重厚感を添えていて、ため息もの——。「欧米の家では、玄関やドアなどの開口にモールディングがよく使われているんだけど、もともとは蛇を模した形で、魔除けの意味があったんじゃないかとぼくは考えているんです」。モールディングにもろいろあるなかで、鰤岡さんが愛用しているのは玉縁とよばれる縁を丸く削ったシンプルな形。絶妙なサイズと形を作り出すため、木を削る刃から作ったというから驚きです。「いい家って何も考えずに住める家だと思っていて。ここがああだったらこうだったら、なんてね。そういう意味では、ぼくや家族にとって、この家は最高にいい家に仕上がっていますね」

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