ワタナベマキさん 近頃の料理と暮らしにまつわる10のこと【前編】

ワタナベマキさん 近頃の話
2021.04.21


料理家としてテレビや雑誌の撮影をこなしつつ、お母さんとして家族のためにおいしいごはんを作り、日々暮らす部屋をきれいに整える。休みなく、毎日くるくると立ち回るワタナベマキさんですが、実はどっこい、スーパーウーマンなんかじゃありません。失敗や後悔は山ほど。手を抜くこともあるし、隙間時間がうまく活用できず思い悩むことも……。そんなワタナベさんの
「近頃」をお届けする不定期連載。ウキッとすることからついへこんじゃうことまで、ゆるゆるっとお伝えしまーす。2回目の今回は「近頃の料理と暮らしにまつわる10のこと」を教えていただきました!

 

01
近頃、意識している
“循環させること”


雑誌や書籍、広告。さまざまな分野でレシピ提供を行なっているワタナベさん。その料理のおいしさと美しさには、料理撮影に慣れたスタッフたちでも、毎回、感激するほど。
「撮影のときは、“きれいな状態”の仕上がりを求められるので、皮をむいたり、キズの入った部分は取り除いたりする必要があります。それは仕事の内容的に仕方のないことだけれど、ちょっと胸が痛むんですよね。せめて、家族で食べるごはんでは、できるだけ全部食べ切ることを意識しているんです」
にんじんやじゃがいもは、できるだけ、皮ごと食べる。そのほか、ピーマン、トマト、なすなど、“皮ごと食べるのが当たり前”な食材を意識して選ぶものひとつのアイデア。セロリも根元のよほど硬い部分は筋を取りますが、基本的にはそのまま。葉までしっかり食べ切ります。
「皮まで食べるから有機野菜にこだわる、ということも、とくになくて。どんな野菜も、作った人は心を込めているはずだから、ありがたく味わいます。大切なのは、新鮮なうちに食べ切ること。野菜は、時間が経つほど皮が固くなったり、筋張ったりします。おいしいうちにさっと食べてしまうのも、おいしく、むだなく味わうにはとても大切なことなんです」


自家採取の種から育てた野菜を扱う「タネから商店」に届けてもらったトマト。「これは徳島で採れたもの。このトマトで作ったガスパチョはとてもおいしいんです。ヘタにもうま味があるから、ヘタごと味わっています」

02
近頃、改めて感じている
包丁の大切さ


料理が楽しくなる近道は、自分の手に馴染む包丁を見つけること、ワタナベさんは、そんなふうに考えています。
「料理には、どうしても“切る”作業が必要。これをストレスなく済ませられたら、料理はグッと楽になります。千切りは面倒なイメージかもしれないけれど、よく切れる包丁を使えば、むしろリズムにのって進められるから、とても楽しいんです」
愛用しているのは、東京・亀戸にある老舗「吉實(よしざね)」のもの。三徳包丁、出刃包丁などさまざまな種類を持っていますが、一番活躍しているのは小さな洋包丁、ペティナイフです。
「私は手が小さいので、このサイズがしっくり馴染みます。まるで手の延長のように、細かい作業もストレスなくできるんです」


「吉實」の包丁のいいところは、一般的な包丁よりもやや重いところ。軽いほうが作業しやすいかと思いきや、どうやらそうでもない様子。
「包丁自体にある程度の重さがあると、その重みで食材を切れるから、余分な力を入れずに済むんです。大量の下ごしらえも、この包丁があるから疲れずにできるんだと思います」
毎日使うこれらの包丁。日常的に自分で研いでいますが、半年に一度はプロの手に任せるのも切れ味を落とさない秘訣。
「年に2回、『吉實』さんに預けて研いでもらっています。するともう、生まれ変わったように切れ味が良くなって戻ってくる! とくにペティナイフは、研ぐたびに小さくなっていくけれど、それもまた、自分が料理をしてきた時間の長さを表しているようでうれしくもあるんです」


(左から)出刃包丁、三徳包丁、洋包丁(大)、ペティナイフ。

03
近頃、参考にしている本


毎月、多くのレシピを発表するワタナベさん。インスピレーションを与えてくれるのは、何気ない家族の一言だったり、旅先でのちょっとしたエピソードだったり。旅に出るのが難しくなっている近頃、その代わりをしてくれるのが本です。
「タイムライフ社の世界の料理シリーズはとても好きで、少しずつ集めています。1970年代の本なので、写真も雰囲気も今の料理本とは全然違います。しかも、レシピだけでなく、その国、地域ならではの食文化も詳しく書かれていて、読み物としてもとても楽しいんです」

さらに、見せてくれたのが『辻留 豆腐料理』。
「昔の料理の作り方って、とても丁寧なんです。今、レシピの仕事のお題として“時短”とか“ラク”というのがとても多いのですが……日々、料理を作り続けていくためには、それももちろん必要なこと。でも時々は、こんな一切手抜きのない料理を作ることも、それはそれで楽しいんじゃないかなあ、なんて思っています。基本のものを、きちんと作る。今、私たちが提案するレシピはどうしても“アレンジ”が多くなりがちだから、初心に帰る意味でも、これらの古い本はよく手に取っていますね」

04
近頃、レシピの読者から
質問されたこと


ワタナベさんが好きな調理法のひとつに“蒸す”があります。湯気でふんわりと包みながら熱を入れていく方法は、素材の味をやさしく引き出します。
「蒸籠(せいろ)を使ったレシピを提案することも多いのですが、読者の方から『上手にできなかったのですが、どうしてでしょう?』という質問をいただくことがよくあって。でも本来、蒸し料理は失敗の少ないものなのです……火加減にさえ、気をつけていれば」
失敗したという読者によくよく話を聞いてみると、やはり、原因は火加減。
「蒸籠を使った蒸し料理は、強火が基本。みなさん、火を強くすることを恐れがちですが、とくに蒸籠の場合は、鍋の中の水さえ蒸発させなければ、まず失敗はないんですよ。また、焼いたり炒めたりする場合も、レシピに書いてあるなら、そのとおり強火で作ったほうがおいしくできます」


失敗しないコツは、レシピを信じて作ること。そしてもうひとつ、時間に余裕がないときはとくに、適当なアレンジを避けること。
「実は私も夕ごはんを作るとき、疲れているとよくやってしまうんです。『面倒だから、あの残りものも一緒に炒めちゃえ』なんて。すると、ほぼ失敗します(笑)。疲れているときは、注意力も散漫になっているもの。扱う素材が多いほど、集中力が必要になるのが料理。疲れているなら、素材を絞る。野菜と豚肉を、にんにくと塩だけの味つけで炒めるくらいのほうが、ずっとおいしく仕上がるし、失敗が少ないですよ」


愛用の蒸籠は、横浜中華街の「照宝」のもの。丈夫なヒノキ製を使っている。

05
近頃、発見した時短アイデア


息子さんが中学生になってから、毎朝お弁当を作る日々。料理家といえども、仕事をしながらとなると、これがなかなか大変です。
「卵焼きは息子が大好きで、お弁当には欠かせないおかず。でも、ひとり分を作るのに卵2個を使うというのがどうも気が引けてしまって。卵1個でも、作れることは作れるけれどふんわりしたボリュームはどうしても出ないから、悩みどころではあったんです」


ある朝ふと、思いついたのがこの方法。通常は同じ方向に巻いていくところを……


まず横半分に折って、


次はなんと、縦半分に! これで四つ折りの状態になりました。


フライ返しを使って横半分のところに跡をつけて横(手前)に折り、八つ折りの状態に。フライ返しで素早く形を整えます。


これで出来上がり。同じ方向に巻くのではなく、縦・横に折ることで厚みが出るので、卵1個でもふんわりおいしい卵焼きに仕上がります。
「お弁当って、毎日のことだから本当に大変。少しでもこの方法が役立てばと思って、さっそく書籍や雑誌でレシピを発表しました」

 

→【後編】はこちらから


text:福山雅美

 

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Profile

ワタナベマキ

Maki Watanabe

グラフィックデザイナーを経て、「サルビア給食室」として料理家の活動をスタート。独立後は、雑誌やテレビなど活躍の場を広げ、レシピ本も多数出版。
instagram「@maki_watanabe

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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