脚本家・木皿泉の幸福論 Vol.4

暮らしのおへそ
2017.01.27

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Vol.3はこちらから

毎日ふたりでとことん話して、
食べて、寝て。

書きたくなるまで、ひたすら待っている。
締め切りなんてぶっ飛ばすくらいに
リミッターを外さなければ
おもしろいものなんて生まれないから。

木皿泉さんの描く作品は、
ほのぼのしているようでいて、
ふとした台詞に深~い人生教訓が
たくさん隠されているのも観どころのひとつ。
たとえば、代表作となった連続ドラマ『すいか』
(小林聡美さん演じる主人公、
信用金庫のOLで34歳の早川基子が、
風変わりな人々が住む賄い付き下宿パピネス三茶での
出会いを通し成長していく伝説のドラマ)
最終回にこんなシーンがありました。

小泉今日子さん演じる、基子の同僚で
3億円を横領した馬場チャンが逃亡中、
基子に会うためパピネス三茶を訪ねますが、
誰もおらず、流しには住人たちの朝食後の食器が。
そこに残された梅干の種を見た馬場チャン。
そのときの自分の心境をこう打ち明けます。

馬場チャン:朝ご飯、食べた後の食器にね、
梅干しの種が、それぞれ、残ってて。
何かそれが、愛らしいって言うか、
つつましいって言うか。
あ、生活するって、こういうことなんだなって、
そう思ったら、泣けてきた。

基子:そんな……おおげさだよ。

馬場:全然おおげさじゃないよ。
掃除機の音も、ものすごく久しぶりだった。
お茶碗やお皿が触れ合う音とか、庭に水まいたり、
台所で何かこしらえたり、それを皆で食べたり──
みんな、私にはないものだよ。
そんな大事なもの、たった3億円で手放しちゃったんだよね。

3億円を横領して、終わりなき凡庸な日々の
閉塞感をぶち破ったかに見えた馬場チャンが、
いつもそばにあった愛おしい日常の価値に気づくという場面。

「誰もが馬場チャンになりたい瞬間はありますよね。
女優さんもみんな馬場チャンを演りたいっていうの。笑」

Vol.5に続く

『暮らしのおへそVol.22』より

text:木村愛 photo:興村憲彦

 

Profile

木皿泉

KIZARA IZUMI

和泉努と妻鹿年季子による夫婦脚本家。2003年連続ドラマ『すいか』で向田邦子賞を受賞。2005年年『野ブタ、をプロデュース』、2010年『Q10』など人気ドラマを多数手がける。2013年、初の小説『昨日のカレー、明日のパン』(河出書房新社)を上梓。NHKで放映されたドキュメンタリーを収録した『木皿泉~しあわせのカタチ~DVDブック』も話題。

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