ロルフィングで自分の体を見つめ直す vol.1

からだ修行
2018.05.02

今月の先生:高橋美穂子さん


アメリカの女性科学者が開発したという「ロルフィング®」。名前は知っていても、なかなか今まで接する機会がなかったのですが、今回はじめてボディワークを体験しつつ、お話を伺ってきました。

photo:砂原 文 text:田中のり子

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今回の先生は、ロルファー(ロルフィングの施術者のこと)・高橋美穂子さん。鎌倉のギャラリー「ボーンフリーワークス」内で、「水平線」という名前で予約制のロルフィングセッションを行っています。会ったとたん、そのやわらかでやさしいオーラと語り口にほっと安心し、話をしているだけでも癒されるような空気感を持つ女性です。まずはロルフィングとの出会いについて、話していただきました。

もともとは会社に勤めるОLだったという高橋さん。お勤め2年目に、お父さまが電車の中で転倒し脊髄を損傷、首から下の体がまったく動かなくなってしまうという不運な事故に遭遇します。高橋さんは会社を辞め、お母さまと一緒に、人工呼吸器をつけたお父さまの介護を経験しました。痰が絡むと呼吸がとまってしまうため、常に誰かが付き添っていなければいけない状態。ベッドを不用意に起こしたら、それだけで失神してしまう、大変な容体だったといいます。

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「父は事故から1年後に亡くなったのですが、介護していた期間、私にいろんなことを教えてくれました。はたから見れば寝たきりの病人だとしても、人は亡くなるその直前まで体のあらゆる部分を駆使して、きちんと生きているすごい存在だということ。それと同時に、たとえば手を動かす、ものをつかむといった普段何気なく行っている行動も、筋肉や骨、関節や神経など多くの要素が複雑にからみあい、それらが合わさった“たまもの”だということです」

お父さまをみとられたあと、自然と「体についてもっと学びたい」という気持ちが芽生えたという高橋さん。そもそもご自身も、子どもの頃から継続的に、「体がラクな状態が分からない」というほど、不調との付き合いが長い人生だったそう。思春期の頃から漢方薬を飲み続けたり、腰痛がひどくて鍼灸通いをしたり。と同時に、昔から人の体の動きを観察するのが好きで、サッカーや野球といったスポーツを観戦しているときも、試合の流れよりも、選手たちの体の動きを見ていることが多い少女だったとか。

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その「観察すること」というのが、今の仕事にも大いに役立っているようで、どうやら私も施術を受ける前に、取材をしながら話す声のトーンや姿勢、呼吸の仕方などを、細やかに観察されていた様子(かといって、その視線はあくまで温かいので、こちら側が緊張するようなことは、一切ありませんでした)。

通っていた整体の先生のお手伝いをしながら、リフレクソロジーやオステオパシーなど、さまざまな施術を経験。やがて20代後半に、たまたまロルフィングを体験する機会に恵まれます。

「体験したときの第一印象が、とにかく面白かったんです。施術を受けてしばらくしたあとに、『私の体って、こんなに緊張していたんだな』ということに気付いて。今まで自分がつくってきた緊張が、体をしばって疲れさせていた。そのことにストンと気付けて、それまでなかった『体を見つめる新しい目』が、自分のなかに芽生えたんです」

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体の不調をつくる要素は、人それぞれ。例えば高橋さんの場合は「緊張」でしたが、他の方は「言葉」や「憧れ」だったりする。たとえば子どもの頃、「あなたは体が固いのね」と誰かに言われたことによって、「私は固い」という思い込みが、体をしばることもある。または細くて足がスラリと長い芸能人に強い憧れを持ってしまったことで、「そうでない自分」を攻めてしまうことも。あるいはちょっとした姿勢のクセや生活習慣、行動様式などによって、体はいろんな型にはめられていきます。

ロルフィングの施術を受け、「体にとってラクな状態」を体感することで、今まで自分の体をセーブしたり、疲れさせたりしている要素に気付く。気付くことにより、以後の自分の体の使い方に変化をもたらす。高橋さんはそういうロルフィングの仕組みを体感し、深い感銘を受けたそう。「もっとロルフィングについて知りたい!」という思いと、当時まだ日本では機会の少なかったロルファー養成トレーニングの募集が重なり、高橋さんはこの世界に入っていったのでした。

さて、そもそも「ロルフィング」とは、どんなものなのでしょう? アメリカの女性生化学者、アイダ・ロルフが、1960年代後半に創始したボディワーク、「ストラクチュラル・インテグレーション(Structural Integration)。日本語では「構造的身体統合法」と翻訳されていますが、その後そのワークは創始者の名前にちなみ、「ロルフィング」の愛称で呼ばれるようになりました。

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ロルフ氏が提唱したのは、すごく大雑把に言うと、体の全体的なつながりに注目し、それに合わせたアプローチをしていくという施術法。日本を始めとした東洋的な身体観では、体を全体としてとらえるのはごく自然なことですが、その頃のアメリカはまだ、体を物質的に、部分に分けてとらえることが当たり前だった時代。このロルフ氏の全体の調和を取り戻し、人間の体が本来持っている潜在能力や自然治癒力を引き出すという考え方は、当時革新的なものでした。

私が「ロルフィング」という存在を知ったとき、よく耳にしたのが「筋膜(きんまく)にアプローチする」というフレーズでした。「それは一体どういうことでしょう?」と尋ねると、高橋さんは施術台の上のシーツを引っ張りながら、説明してくれました。

「筋膜とは、筋肉や内臓を包んでいる膜のこと。そしてそれらの組織を結びつける、結合組織でもあります。鶏肉のささみを買うと、白い皮のようなものがついていますが、それが筋膜。ソーセージのまわりを包む、薄皮のようなものを想像するといいかもしれません」

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「体はひとつのつながりと話しましたが、例えばシーツの右上端を引っ張ったら、左下端がひきつれたりしますよね。たとえば体も、ある部分に不調があったとしても、実はその部位自体が悪いわけではなく、筋膜でつながっている別の部位にある問題が、不調を引き起こすことがあるんです」

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なので、肩こりや頭痛という不調があったとしても、そこから離れた場所にある足の裏や足首、手や指にふれることで治癒に導くこともある。鍼灸や東洋医学では、「経絡」(気・血・水の通り道)といった概念で、患部から離れた場所に鍼を打ったり、お灸をすえたりしますが、ちょっとそれに似ているなと思いつつ、まったく違ったアプローチが興味深く思えました。

また、ロルフィングは「姿勢」を非常に重要視します。人間の体は、絶えず重力によって、地面に引き寄せられていて、その重力との微妙なバランスをコントロールしながら生きています。けれども現代に生きる私たちの多くは、さまざまなストレスによって、重力との調和を乱しており、結果的に腰痛や肩こりを始めとした、体のトラブルを引き起こしているそう。

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「たとえば私がそうだったように、人はちょっとした体の使い方や姿勢の調整をするだけで、ものすごくラクになることがあるんです。そのラクなパターンを経験することによって、体も少しずつ変わっていく。そういったことが、ロルフィングの得意分野だと思います」

さらに高橋さんからは、「ロルフィングは、疲れにくい体をつくるもの」との名言も飛び出しました。

きちんと寝て休めて、きちんと呼吸さえできていれば、自然治癒力が発動して、勝手に不調は解決していくはずなんです。けれども多くの人が、『本当の休息』や『体がラクになる呼吸』というものが分かっていない。そしてそれは、誰かから与えられるものではなく、自分自身が気付いていくもの。ロルフィングは、それができるボディワークだと思います」。

そんな前置きを伺い、ますますロルフィング体験が楽しみになりました。いよいよ施術のスタートです。


→vol.2へ続きます

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水平線

神奈川県鎌倉市由比ヶ浜4-10-20 SOHO2号室「BORN FREE WORKS」内
営業日:月・火・水曜(予約制)
randigloo@gmail.com
http://randigloo.web.fc2.com

Profile

高橋美穂子

Mihoko Takahashi

会社員、整体助手などを経て、ロルフィングの世界へ。2006年8月、米国ロルフ研究所のロルファー認定を受ける。現在は鎌倉を中心にセッションやワークショップなどの活動を行い、必要があれば近郊へ出張セッションも行っている。

田中のり子

Noriko Tanaka

衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。

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