エディター・山村光春さん【前編】「短い文章の中に、どれだけ自分の心を通わせられるかをいつも考えています」

”オリーブ少女”の先輩に会いに行く
2016.07.19

そばかすがチャームポイントになることも、かごのかわいさも、公園で食べるサンドイッチのおいしさも。大事なことはみんなオリーブに教わった。80年代、90年代、少女たちに熱狂的に支持された雑誌『オリーブ』。その熱狂をつくり出していた、素敵な先輩を訪ねます。

text:鈴木麻子


「いやいやいや、僕なんて!」。インタビューを申し込むと、電話口の向こうでその人はそう繰り返しました。「僕は長いこと裏方としてやってきたし、オリーブ少女の“先輩”だなんて、そ、そんな、おこがましい~」。ひたすら恐縮しているのは、エディターの山村光春さん。『オリーブ』に関わっていたのは1995年から2000年の5年間。山村さん、25歳から30歳のときのことでした。

確かに先輩、というよりはもうちょっと私たちに近い存在、いうならばお兄さん?ライターとして、読者に寄り添い、放課後の少女たちに、たくさんの楽しいこと、面白い話をしゃべりかけてくれた「オリーブ少女のお兄さん」です。そのころのことが聞きたくて、山村さんの住む長野・上田へ向かいました。

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↑ ストライプのBDシャツ、ショートパンツをシュルッと着こなすその佇まいは、「オリーブ少女のお兄さん」そのもの。

「山村君、『オリーブ』編集部にスタッフとして来ない?」。当時の編集長が言ったひと事が、山村さんの人生をガラリと変えました。「当時僕は大阪に暮らし、違う出版社で仕事をしていました。その仕事も楽しかったし、同じ時期に小さな雑誌ですがそれをまかせたいっていうオファーも頂いていたんです」

手放す仕事、新しい土地、一からの人とのつながり……。いまの楽しさの分量と、未知のワクワクの分量を秤にかけて、山村さんはエイヤッと東京の『オリーブ』編集部へとやってきたのです。
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↑ いつも持ち歩いている相棒カメラ「FUJIFILM X-E1」。自身が主宰するウェブブック「haluta365」の写真を担当することも。

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↑ 眼鏡は山村さんのトレードマーク。今のお気に入りはオーストリアの老舗メーカー「ルノア」のもの。「もの選びに迷いはないほうですが、眼鏡は特にかけた瞬間、好きか嫌いか一瞬でわかるんです」

街ネタ、モノクロのカルチャーページ。山村さんが主に担当していた記事です。「先輩の編集者に言われていたのが、“ちょっと年上のお姉さんが教えてあげる”というスタンスで物事を選び文章を書くように、ということ」。『こんな素敵なカフェを見つけたよ』『○○○っていう本、感動したから読んでほしいな~』『みんなが大好きな▲▲▲さんに面白い話を聞いてきたよ』。

「お姉さん(じつはお兄さんですが)からの手紙」のように届く情報は、読者の好奇心や憧れをコチョコチョとくすぐり、読む度ごとに、少女たちの新しい部屋のドアは開かれ、刺激的な選択肢が増えていったのです。

「ビートニクス(1950年代中盤にアメリカで起こった文学運動)の特集を組んだり、香港映画をみっちり紹介したり。高校生の読者にビートニクスとか、いま考えたらすごいことじゃないですか?」。でも、それこそが『オリーブ』。世の中のふわふわとした上澄みじゃなく、もっと根っこの部分を掘り起こし、骨太な世界に私たちを案内してくれていました。

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↑ 北海道の革鞄と馬具ブランド「ソメスサドル」のメモホルダー。取材ノート、企画のメモなどすべてはこちらに。
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↑ 「RHODIA」のメモパッドの裏には使い始めの日付を書き、ずっと保管。「家には山のようにこのメモ帖があります」

「ときはインターネットの無い時代、たくさんの人に話を聞き、靴の底を減らすようにして足で探し回りました。そこで得た情報を誌面に起こすときに、何よりも気をつけたのが、ただ情報を伝えるだけじゃなくて、自分が何を思ったかを入れるということです。自分の視点みたいなものをもって、それをどう表現するか? と、いつもいつも考えていました。ひとつひとつに魂を込めて。オリーブの文章って短いんですよ。1時間くらいじっくり取材して話を聞いても、紹介できるのは400文字だけ、なんて当たり前。絶対に入らない。だから、“まとめ力”みたいなものはそこで培われたんじゃないでしょうか。短いなかで、情報だけじゃなくて、エモーショナルな部分をちゃんと入れる、心を通わせる。それは、いまでも、どんな仕事でも、ずっとずっと気を付けていることです」

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↑ お気に入りのカフェ「別所エスプレッソ」でちょっとお仕事。『オリーブ』の伝説企画「カフェグランプリ」も担当し、2000年代に興った「カフェブーム」の立役者でもある。カフェに関する著作も多数。

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↑ 今、暮らしている上田には、ワクワクを促す素敵なスポットがたくさん。こちらは、ブックカフェ「NABO」。183万冊もの古本の在庫を有し、3ヶ月に1回、本の入れ替えが行われる。

→後編に続きます。

 

第1回 大橋利枝子さんはこちらから

第2回 堀井和子さんはこちらから

第3回 山下りかさんはこちらから

第4回 湯沢薫さんはこちらから

第5回大森伃佑子さんはこちらから

Profile

山村光春

Mitsuharu Yamamura

ライターとして『オリーブ』に関わる。ペーパーメディアの編集室「BOOKLUCK」主宰。女性誌を中心に、さまざまな媒体で誌面構成から取材・執筆を行う。『眺めのいいカフェ』(アスペクト)、『おうちで作れる 老舗のカフェスイーツ』(世界文化社)などの著書も。2015年夏からは、東京と上田の二つの都市に拠点を構える。ウェブブック「haluta365」を立ち上げ、さまざまな角度から「居心地のいい空間づくり」について展開する。今年5月には、「暮らしとおしゃれの編集室」のデイリー連載「今日のひとしな」も担当。

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