和歌ってこんなにおもしろい!個人的おすすめ3首をご紹介します

編集部ブログ
2023.05.24

はじめまして。「暮らしとおしゃれ」編集部に研修でお邪魔している平野です。先輩方が脈々と受け継いできたこの「新入社員研修ブログ」。今回、なんと僕にも書く機会をいただきました。新入社員といっても中途入社のため三十歳になるので、おそらくこのシリーズでは史上最年長です。そのプレッシャーを感じつつ、はりきって書いていこうと思います。
先輩方の記事も下部でご紹介しておりますので、ぜひお読みいただければ嬉しいです。

さて、冒頭の一文ですが、お気づきになられましたでしょうか? 実は五・七・五・七・七の短歌になっています。
マスク着用が自由になったものの、新しい職場、新しい仕事に戸惑うのを悟られたくなくてマスクも悪くないな、という少し年齢を重ねた新人の気恥ずかしさを詠ってみました。

実は、こうした短歌の創作がSNSを中心にちょっとしたブームになっています。
僕もそれをニュースで知り、いくつか作品を読んだのですが、これが面白い。ストレートに思いを込めた抒情的なものもあれば、日本語ならではのギミックがちりばめられた技巧派のものもあり、ずっと読んでいられます。

しかし、僕は言いたい。「和歌もすごいぞ」と。
私は文学が好きなのもあり、学生時代に和歌にはまっていたことがあります。「たった三十一文字にどんだけ感動詰めんねん」と思わず突っ込んでしまうほど、豊かな表現に夢中になりました。

ちなみに短歌と和歌の違いは、作品が詠まれた時代です。近現代以降の作品を短歌、江戸時代など近世までの作品が和歌と呼ばれています。厳密に言うと平安時代より前は短歌とする場合もあるようです。少しややこしいですが、僕はざっくりと「和歌=昔の人が作った短歌のことなんだなあ」という解釈をしています。

僕が思う和歌の面白さの一つは、古語ならではの言葉遣いです。現代にはない独特な語感があり、音読したときの耳触りが心地よくクセになります。そして、数百年を経ても変わらない人間臭さを感じられることも魅力です。人間の喜びや悲しみ、恋愛の悩みのテーマのものなど現代でも共感できる歌がたくさんあります。

今回はこの短歌ブームに乗っかり、和歌のことも知ってほしい! ということで僕が個人的に好きな和歌三首をご紹介します。


まずご紹介したいのが、こちらの歌。

読み方:おくららは いまはまからん こなくらん それそのははも われをまつらんそ
意味:憶良めはもうおいとましましょう。子供も泣いているだろうし、そう、その母も私を待っているでしょう。

作者は山上憶良(やまのうえのおくら)。奈良時代の貴族でありながら庶民の暮らしを詠んだ歌が数多く残っている歌人です。

この歌は貴族の宴会の途中で席を立つ際に、憶良が即興で詠ったと言われています。
つまり憶良は、上司もいる飲み会の途中で「いやーすいません、ちょっと自分お先です。子供と嫁が待ってるんで」と言って席を立ち帰ったということです。

……すごくないですか? 現代ならまだしも、階級と生まれがものを言う奈良時代にこれをできる勇気。かっこいい。元祖・子煩悩パパ。理想の父親ランキング殿堂入りです。おめでとうございます。


続いては源実朝が詠んだこちらの歌。

読み方:おおうみの いそもとどろに よするなみ われてくだけて さけてちるかも
意味:大海の岩もとどろくように寄せている波。割れて砕けて裂けて散っていることだなあ。

源頼朝の次男であり、十二歳という若さで鎌倉幕府三代目の将軍となった実朝。鶴岡八幡宮で甥の公暁に暗殺されるという悲しき最期を遂げるわけですが、歌人としての評価が非常に高いのはご存じでしょうか。

前半では、広大な海から打ち寄せる波が磯に激しく叩きつけられる風景を描写しています。一方で後半は、その波が”割れて砕けて裂けて散る“という表現でたたみかけています。
実朝の最期を知っていると、単なる風景描写ではなく、自分にはどうしようもない状況を嘆いているようにも感じます。

この和歌の特徴は本歌取りと呼ばれるその技巧が凝らされている点。本歌取りとは万葉集や古今和歌集など、昔の歌から句の一部を頂戴して新たな作品を作り上げるという手法です。

おもに上の句が別の作品から引用されています。そして下の句が実朝のオリジナル。これらを組み合わせて新たな一首を作り上げています。こんな芸当は豊富な和歌の知識を持っていないとできません。つまり、実朝は相当な和歌オタクだったということです。

ちなみに現代でも本歌取りのような技法は様々な芸術の分野で取り入れられています。たとえば音楽。最近の曲でも「あれ、このメロディ、新しさもあるけどどこかで聴いたことあるな」という体験あったりしませんか? アレンジが加えられているので気づきにくいですが、コード進行や歌詞の一部をそのまま取り入れたりして楽曲を作ることは珍しくありません。
僕の大好きなアーティストである星野源さんは、マイケル・ジャクソンやプリンスといったブラックミュージックから多大な影響を受けており、それらの要素を作品の中にちりばめて楽曲を制作しています。実朝と同じです。ということは、星野源さんは現代の実朝というわけですね。
……無理やりですかね。


最後にご紹介するのが、この歌。

読み方:はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすちょう あまのかぐやま
意味:春が過ぎ夏が来た。真っ白な夏の服が干してある天の香具山

この歌は国語の授業でもよく取り上げられているので、なんとなく覚えがある方も多いと思います。女性天皇として有名な持統天皇の歌です。
僕がこの歌を好きな理由は、実際に声に出して詠んでみるととても気持ちいいところ。日本語独特のリズムにきっちりとおさまっているような感じがして、何度も口にしてしまいます。
特に「なつきにけらし」~「ころもほすちょう」までの流れが完璧です。
ここまでで声に出してこの歌を読んでしまった方、もう和歌の虜ですね。

以上、僕のおすすめ和歌三首をご紹介しました。

この他にも紹介しきれないおもしろい歌がたくさんあります。
最近では解説付きの歌集や最近の流行りの若者言葉を使ったユニークな現代語訳など、様々な書籍が刊行されています。
この記事を読んで少しでも和歌や短歌に興味を持っていただいた方、ぜひあなたのお気に入りの作品を探してみてください!

 

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